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私を思い出して

暗闇の中、僕は今、何かに引っ張られて橋から川の中に飛び降りをする寸前だ。
でも、僕は自殺願望がある訳ではない。
死にたくない。

1日前
久しぶりに休暇が取れて旅行に来ていた。
今回は、突然思い立ったので一人旅だった。
1つのプロジェクトが終わったので二週間ぐらい休みを取って、そのうち一週間は普段家のことを全然やってな買ったので、部屋の模様替えや掃除をして、残りの一週間で長野県に旅行に来ていた。
特にプランも考えずに来て、色々移動するというよりは一つの場所でゆっくり過ごすことを考えて軽井沢にやってきた。
観光スポットを泊まっているペンションが無料で電動自転車を貸してくれたので、サイクリングしながら周り今日は3日目。

朝食を食べながら、ペンションのオーナーに「どこかおすすめの場所はないですか?」と聞いたら、車で行ったほうがいいけど白糸の滝ってのがあるから行ってみたら?」とアドバイスをもらえた。
「ありがとうございます。今日はゆっくりするつもりだから、明日考えてみます。」
朝食を食べ終わって部屋に戻って、今日は部屋でゆっくりしようと持ってきたまだ読んでいない本を何冊かベットの上に出した。

「今日、ここにいるならお昼はどうするんだい?」
オーナーが部屋に聴きに来てくれたが、「お昼は散歩しながら近くの蕎麦屋に行こうと思ってます。」と答え、オーナーもちょっとした情報をくれて部屋から去っていった。

軽井沢には、景色が綺麗な場所がいくつかあって季節によって楽しみが違う場所がある。
ここ数年は、アウトレットができて新幹線が開通したものあって、かなり日帰りが増えているみたいだが、僕はあえて連泊して満喫することを選択した。
軽井沢は、小さい頃も親に連れてきてもらっていて、親の保養所があったので夏休みはここで過ごしたこともある。
ふとその時のことを思い出した。
「そう言えば、あの保養所の近くに小さい橋があったなぁ。行ってみようかな。」
Google Mapで親の働いていた会社の保養所を調べたが、今は別の会社になってしまったのか無くなってしまったのか見つけることができなかった。
夜、夕飯を食べた後ラウンジでハイボールを飲んでいる時にオーナーに聞いてみたが、オーナーもここにすみ始めて20年ぐらいになるけど、あまり昔のことはわからないという。
明日、ちょっと冒険してみようかな。そう思って眠りについた。

その夜、夢の中でその橋が出てきた。そこは吊り橋になっていて小さい人が通れるぐらいの幅しかない橋だった。
橋の向こうで、白いワンピースを着て麦わら帽子をかぶっているが顔がよく見えない女の子が僕を手招いていた。
誰だかわからないけど、僕は彼女に向かって橋を渡っていた。

次の日、なんとなくの記憶を辿ってまずは駅から旧軽井沢の方へ向かい自転車を走らせる。オーナーが途中でバッテリー切れたら大変だからって予備のバッテリーを後ろのケースに入れてあるのでちょっと重いが少々の坂道は問題なかった。
多分ここだろうという場所について、昔の記憶を辿る。

風が抜けた。
風の流れていく方向を見ると…
昨日、夢に出てきた女の子が遠くからこちらをみていた。
「待って」
僕は彼女を追いかけていった。彼女はふと姿が消えたと思うと次の角に立っている。冷静に考えればこの時点でおかしいが、僕は気づかなかった。
必死で追いかけると橋が現れた。
そう、あの橋が目の前にあって昨日の夢と同じように彼女は橋の向こうで手招きしている。

時間はもう夕方を過ぎてこんな林の中だと陽が届かないので暗いが、彼女だけはっきり見えている。
惹きつけられるように橋を渡り始めた僕を彼女はずっと見つめていた。

半分ぐらい橋を渡った時。
彼女の姿が消えた。
次の瞬間、彼女が横にいた。いや彼女でない…なんとも言えない腐敗した女性がボロボロの昔は白かっただろう服を着て僕の手を引っ張った。
その瞬間、橋もさっきまで綺麗だったのにボロボロになり足元が無くなった。

「待ってたよ。ずっと、あなたがくるのを」
手を引きながら彼女が耳元で囁いている。
咄嗟に僕は、橋のまだ繋がっているロープを手に摘み必死で落ちるのを堪えた。
声が出ない。「助けて」と叫びたいのに叫ぶこともできない。それに、ここで叫んでもきっと誰にも届かないだろう。
必死に左手を掴んでいる彼女を振り払ったが、今度は足を掴んできた。
「私を忘れたの?あなたは20年前、一緒にいてくれるって言ったのに来なかった。あなたをずっと待っていたの。毎日毎日。そしてやっとあなたが来てくれた。私を思い出してくれた。」

「誰だ?ぜんぜん思い出せないよ。」
必死に堪えながら同じような事が昔あったことを思い出した。
あぁ、あの時、そう君と一緒に遊んでいてこの橋に来た時、突然突風が吹いてこの吊り橋が揺れて君は投げ出されてしまったんだよね。
「そうよ。あなたはあの時助けてくれなかった。ただ私が捕まっている時も見ているだけで何もしてくれなかった。」
そうだ、僕は怖くて助けも呼べず助けにもいけずただ見ていただけだった。
そして…君は落ちてしまった。

そのあとみんなで捜索したが、前の日の雨の影響で水かさが上がっていて流されてしまったんだよね。その後も君の遺体は見つからなかったと後で聞かされた。
そうだ、僕はあまりの恐怖だったからなのかこの記憶を完全に消し去っていた。

「ごめん、あの時助けてあげられなくて。ごめん。何もできなくて。清恵ちゃん。」
僕は、泣きながら心から謝った。
もうだめだと思ったその瞬間、ふと手が軽くなり彼女は消えていった。
あの時の可愛い彼女の笑顔が川の中に消えていった。

なんとかロープをつたい岸に辿り着き、自転車でペンションまで帰った。
オーナーに一連の出来事を話たら、オーナーは泣き出した。
そうオーナーは彼女の弟だったそうだ。

後日、消えていった場所付近を捜索したところ砂と石に埋もれた彼女の骨が見つかったと連絡をもらった。

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