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モノローグでモノクロームな世界

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2019年2月の記事一覧

モノローグでモノクロームな世界

モノローグでモノクロームな世界

第二部
第二章 二
 体にどれだけの価値があるのかは、私にも分からない。物謂わぬ躰は、ただの物質にしかすぎず、死んだ人間の魂は別にあるのだと、ずっとそう思っていた。だが、いざ体を棄てろと言われると抵抗があるのだ。
まるで、彼女の存在自体を自ら抹消するようで。

 恐らくこれは、私自身の罪悪感が大きく関係しているであろうことは、自明の理だった。
だが、物質には時間的制限がある。日に日に増す腐臭とその

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第二部 第二章
二、
 それでも人間という物は存外、逞しくできているらしい。
個人差はあれど、三日も経てば多くの者がこの集団の一員として、生き続けるために各々の役割を演じ始めていった。
いつか終わりが来るというその希望に縋りつくために、皆が前に進み始めていった。
 無論、全員ではない。
私のように、絶望から抜け出せない者も居た。不安や突然、放り込まれた現実に憤ることも無く、目の前の問題をただひたす

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第二部 第二章
一、
巨大な地下倉庫。
そこはそう表現するのがぴったりだった。
始めからどの程度の想定がされていたのかは不明だが、私達が今いるこの場所は、地下に造られた巨大なシェルターだった。非常用の電気が作動した地下空間に収容された人々は、ぼんやりとした灯りの下で、皆一様に疲れ切った表情をしていた。
 何が起こったのか。
これからどうすればいいのか。
いつこんな状態に終止符が打たれ、日常に戻れ

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モノローグでモノクロームな世界

White NOise#04
 
黄金の光に包まれる子供達。
群青色と茜色の狭間で目覚めたニンフ。
乳白色の空気に塗り潰された白昼夢と、
極彩色に塗り潰した夜の帳。
目覚めたのは誰?
嘘をついているのは誰?
 ネオンカラーに彩られた嘘を纏い、僕たちは口を閉ざした。

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モノローグでモノクロームな世界

第二部 第一章
四、
 「どこに行けばいいんだろう。私達。」
私の手を掴む彼女の声が、かぼそい糸のように私の耳に届いた。
その儚げな声に何かを返さなければいけない。私が彼女の方を振り向こうとしたその瞬間。

 空から溢れるすさまじい光。
思わず瞼を固く閉ざす。
続けざま、全ての物を根こそぎ奪うような凄まじい突風に襲われ、その暴力的な風に、呼吸をすることができず、ただその場にうずくまった。
 周りの

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モノローグでモノクロームな世界

第二部 第一章 
三、
 似鳥 李鳥。
それが彼女の名前だった。
市内の女子高に通う高校生。
分かっているのはそれだけだった。
いつからか彼女が本屋でバイトをする火曜日、木曜日、金曜日は、お店が閉まるまで、店内でやり過ごし、駅までの道のりを二人でとぼとぼと並んで帰るのが私の日課になっていった。
 周囲には、私達がつきあっているように見えていただろう。
だが、実際の所は、一緒に帰るようになって大分経

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モノローグでモノクロームな世界

第二部 第一章 
二、
 てっきり哲学専攻の大学生が書いたのだろうと思っていた私の予想が、あっさりと裏切られたと判明するまで、そう日はかからなかった。
とはいえ、彼女の存在を見つけるまでの私には、その日々は苦痛とまではいかないまでもそれなりに大変な時間であったことは変わらない。

 あの夏の日、さっくりと刺された私は、その原因解明に努めるべく、時間さえあれば、否、無理矢理にでも時間を作ると足しげく

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