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モノローグでモノクロームな世界

第二部 第二章
一、
 巨大な地下倉庫。
そこはそう表現するのがぴったりだった。
始めからどの程度の想定がされていたのかは不明だが、私達が今いるこの場所は、地下に造られた巨大なシェルターだった。非常用の電気が作動した地下空間に収容された人々は、ぼんやりとした灯りの下で、皆一様に疲れ切った表情をしていた。
 何が起こったのか。
これからどうすればいいのか。
いつこんな状態に終止符が打たれ、日常に戻れるのか分からないという漠然とした不安に、皆が晒されていた。
私は自分の傍らに置かれたままの李鳥の姿を見つめた。そっと彼女の冷たくなった頬に手を当てると、体にかけられていた毛布をゆっくりと上まで引き上げた。

 食糧や水、その他生きていくにあたり必要最低限の物資は当面過ごせる程の備蓄が揃っていた。非常用電力の確保とその物資の量から、この人数ならば、ある程度保つことができるだろう。そう皆の前で説明をした口髭を蓄えた男により、ミネラルウォーターのペットボトルと携帯食品が人々に配られた。彼は私の手前で一瞬立ち止まると、考えるような仕草をした後、一人分でいいかと私に尋ね、私はそれに対して静かに頷いた。

 あの時、私と彼女を襲ったのは、隣国の爆撃だった。切れ切れの電波を受信しながらラジオは、私達に衝撃てな事実を次々と無機質に伝えていった。
世界中のあらゆる国が次々と攻撃を重ねていったこと。
どの国も攻撃による爪痕が酷く、また死傷者の数も計り知れない数に上ること。
各国の政府は現在、全く機能しておらず、この全世界の危機に対処すべく、臨時の国連が開かれていること。また、安全面の確保が難しいことから、この惨禍から生き残った人々は、現在、地下シェルターでの生活が義務付けられているということ。
 その絶望的な内容に、人々は茫然とし、言葉を失った。
まるでどこかのB級映画みたいだな。
誰かが発したその言葉に返す者はいなかった。
ラジオはそれ以降、何も発する事は無く、ただの黒い箱へと還っていった。





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