元カノ
彼はよく元カノの話をする人だった。でも、彼はいつも元カノを落として、私のことを褒めてくれた。
きっと彼も悪気があってそういう言い方をしてしまうんじゃない。
もう元カノのことが嫌いだからとかいうわけでも無い。
だから、彼が元カノの話をするのを聞いて少し胸がちくちくしたとしても、今、彼が好きなのは私なのだとわかっていればそれで良いと思っていた。
彼と別れてから10ヶ月。ずっと彼の元カノたちが恨めしかった。
私も、もう彼の元カノになってしまった1人なのだけれども。
よく話に出てきていたあの人たちは彼からしたら私より魅力的ではなかったのかもしれない。
それでも少なくとも私より長く付き合っていたはずだ。
私よりも彼に好きだと言ってもらえて、キスだってセックスだって何回もしていて、周囲の目なんて気にせずに、当たり前に色んなところでデートをしていたんだろう。
そのうちの1人の子とは同棲だってしていたと話していたし。
彼女らはもう彼のことは人生の踏み台程度にしか思っていないのだろう。
じゃあなんでそんなに軽い気持ちで付き合っていた(これは私の被害妄想だけども)人たちの方が、自分の性自認だとか、性的指向に悩んだことのないような、私のように「この人しかいない」とまで強い気持ちで彼を思っていなかった人たちの方が彼の色んな顔を知っているんだろう。
有る事無い事を考えてはひたすら自分が惨めに思えた。
彼と別れてから、自殺未遂や実家への避難を経ても、彼への想いは変わることなく、むしろ日に日に増していった。
だからこそ絶対にまた振り向いて欲しいと思い、自分磨きを頑張ろうと決意した。
手っ取り早く垢抜けるためにパーソナルカラー診断と骨格診断を受けた。
本やネット、学校の授業でさらにメイクの勉強をするようになった。彼に「伸ばしたらスーパーモデルみたいになるのに」と言われたのを実現させたろうやないかと、楽で大好きだったツーブロックと襟足の刈り上げをやめ、髪を伸ばすようになった。
ずっと依存していたアルコールを少しずつ減らし、お酒を飲まなくても眠れるようになった。
痩身目的のエステに10万払って通い、去年一番太っていた時より10キロ以上痩せることができた。
ずっとコンプレックスだった歯並びを治すため、歯を7本抜いて歯科矯正を始めた。
始めるならスケジュールが調整しやすい学生の間の方がいいなと思い、全身とVIOの医療脱毛も受けている。
目標としていた音楽業界に入るため、SNSやブランディングの勉強をするようになった。
就活が始まり、元大学のキャリアセンターの職員だった彼に連絡したいがために、色んな会社の志望動機や自己PRを書いて添削してもらってを繰り返した。
「就職先決まったらお寿司奢るよ」と、別れた後に唯一した約束を叶えるために、何がなんでも就職しようと思った。
大手の選考を進んでいく原動力も、全て彼に褒めてもらいたい一心だった。
「もうりんのことは好きにならないから」と彼は何度も言ってくる。
それでも、そう言いつつも電話をしてくれる彼の優しさに甘えていたかった。
彼への気持ちが無くなった後、自分が生きていけるかが不安になってしまうくらい、彼への気持ちや、彼と一緒にいる未来が人生の希望になってしまっていたから。
痛い女だとかメンヘラだとか言われてもしょうがないことは分かりきっている。
彼は私じゃなくてもいいことも、私じゃダメなことももう自分が一番分かっている。
でも彼の27年分の人生に寄り添えてなくても、残りの人生全てに寄り添えられたら、今みたいに元カノのことを気にしなくなれるのに。
彼が人生で一番好きになった人じゃなくても、私は彼が人生で一番愛した人になりたい。
また、ベッドの中で彼に「可愛い」と言ってもらえる日はくるのだろうか。
元カノのことなんて忘れて、ただ純粋に私のことをたくさん褒めてくれる日なんてもう来ないのかもしれない。
自分をひたすら磨いていくことで、もう彼のことを必要とせず、自分の足で人生を歩めるようになるのかもしれない。
それでも「元カノの中では一番可愛い」なんて思ってて欲しい。
それに見合うよう、一緒に入れる間だけでもずっと可愛い私でい続けるから、ねえ。
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