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野口さん編集って何ですか? 『faber! no. 1』特集「本をつくる」試し読み

6月6日(日)開催のCOMITIA136で販売する『faber! no. 1』では、「本をつくる」を特集しています。今日から3日間連続で、特集記事の試し読みを無料公開! 初日の今日公開するのは、編集者野口尚子さんのインタビューです。

本をつくろう! そう意気込んだ私たちは、本づくり、とりわけ編集についてあまりにも無知だった。編集とは、編集者とは一体何なのだろう……。
そう悩んでいた時、商業出版・同人活動を問わず多くの雑誌や書籍に携わり、本というメディアをも軽々しく飛び越えてしまう編集者の存在が頭をよぎった。野口尚子さん、彼女に話を聞くしかない!
そんな希望にお応えいただき取材が実現。どのように本づくりや編集に取り組んできたのか、お話を伺った。

野口尚子[のぐちなおこ]
編集者。1984年生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。エディトリアル系制作会社などを経て、2014〜2018年2月まで『MdN』(エムディエヌコーポレーション)の編集に従事。現在はSozi inc.でWebサービスの企画編集に携わる傍ら、フリー編集者としても働く。同人サークル・PRINTGEEKで個人的な本作りも行っている。

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編集って何ですか?

―そもそも、編集の仕事が何なのか僕たちはあまり分かっていなくて……。編集って何ですか?
ハハハハハ(笑)。それは一般的な編集の意味合いについてですかね?

―はい。
編集って広く使われる言葉なので一般的な答えとはちょっと違うかもしれないけれど、私が一番大事だと思っているのは情報を構成するところです。どんな媒体でもある程度決まっている枠組みが存在して、その中でどういう情報をどう見せてあげるか。例えば雑誌の特集なら、こうしてあげれば上手く面白く伝わって、買ってもらえて、世の中でも話題になるんじゃないか。そういうところを考えていくのが編集なのかなと思っていますね。

―では、野口さんはどうして編集者になったんですか?
実は最初から編集をやろうと思っていたわけではないんです。武蔵野美術大学の基礎デザイン学科を卒業して、最初は雑誌のDTP(注1)・エディトリアル(注2)を手がけている会社に新卒で入りました。コンビニに置かれるような大手出版社の雑誌・女性誌のDTPとかをやっている会社です。当時2007年なんですけれど、会社では出版の仕事が将来的にどんどん減っていくというのもあり、印刷でできることで付加価値をつけていこうという動きがありました。そこでいろんな印刷加工技術を調べていくうちにそっちのほうが面白くなってしまって、めちゃくちゃ印刷会社を回っている時期があったんです。

―「見学させてください!」と言って回っていたということですか?
そうです。個人的な興味もあって、仕事の延長でどんどん自分から勉強させてもらいに行っていました。ちょっと変わった加工ができるところにお問い合わせをしたりして。取材でも何でもないんですけれど、若い人が来るというだけで割と親切にしていただきました。その後、入社して一年半くらいで会社を辞めることにしました。思っていた出版のイメージとはちょっと違うかも……というのがあったんです。一度そういう現場とは距離を置こうと。それで、印刷会社をいろいろ回っていたご縁もあって、印刷関連の仕事をディレクション側ですることが増えていきました。

―ディレクションというと?
デザイナーのイメージを印刷でどうかたちにしていくかのお手伝いみたいなことでしょうか。いろんな小さい工房や印刷会社との繋がりが多かったので、現場と接してそれをデザインに活かす方法を考えていました。そういった仕事を個人でしている中で、物をつくることに結構重いジレンマを感じていた時期があって、20代半ばから後半くらいの時期はコンテンツをつくることと物をつくることとで悩んでいました。

―それは仕事をしていると、コンテンツをつくる側と物をつくる側とが分離しちゃうことへの葛藤でしょうか?
うーん。まあそうかな。東日本大震災の以前・以後みたいなところがあるんですけれど……。震災がきっかけになったというのは、その、印刷が工業生産であるということが改めて身に染みたのが大きいです。東日本大震災が起こった時にも印刷の仕事がいくつか動いていて、ニュースを見ながら印刷会社とやりとりをしていると、いま印刷機を回すことがいかにあり得ないことかが見えてきます。機械はメンテナンスしないと動かせないし、動作中に停電すると故障するので計画停電は絶対に避けなければならない。そもそも物流が動かないから資材は入ってこない。現場の人にだってなるべく安全な場所にいてほしい。そういう時に、自分個人で扱えるものの重みを強く感じてしまったんです。それでも納期には合わせたいという発注側との乖離もあって、自分が間に立つことが状況を覆い隠して、事態を悪くしているんじゃないかという気持ちもありました。それで、一度考え直そうと、より一人の人間の中から生み出せるコンテンツにシフトしていった……という感じでしょうか。

―難しいですね。
でも、もちろん物をつくることに絶望しているわけではなくて、同人誌をつくっていく中でやっぱり物って面白いなという思いが復活していったので、何か自分の中での折り合いを段階的につくっていく期間があったという感じですかね。当時はそんな感じで悩みながら会社に入って広告制作の仕事をしたりしていました。『PLOTTER』をつくるきっかけも、ちょうどその頃です。原研哉さんと永原康史さんがやられていた『言葉のデザイン(注3)』というイベントがあって、それに行ったときに共通の友人を通してcarmineさんと出会いました。彼は当時19歳くらいで多摩美の学生だったんですけれど、すごく印刷が好きで。「この間C‌Dのジャケットをつくるのに初めてトムソン型(注4)をつくったんですよ」と最初に話されて、そんなこと言ってくる19歳いる?変わった若者だな……と(笑)。それがきっかけで仲良くなりました。その後、彼はデザインの仕事に集中するため大学を途中でやめるんです。でも、大学って実際にそれが役立つかは分からないけれど、仕事とも違ういろんなことを勉強したり考えたりできる環境じゃないですか。それがなくなっちゃうのがもったいないなと思ったんです。私もいろいろ自分でつくってみたい、勉強してみたいというのもあり、「一緒に同人誌をつくりながら、いろんな人に教わる機会をつくらない?」と声を掛けました。それでつくり始めたのが『PLOTTER』です。

―そんな経緯があったんですね。
それで『PLOTTER』をつくり始めて一号目が完成したくらいのタイミングで、たまたま当時『MdN』の編集長だった本信光理さんと知り合うことになりました。その頃『MdN』が大きなリニューアルをしたばかりで、「ちょっと『MdN』を手伝いませんか?」と声をかけてもらい、本格的に編集者として仕事をすることになりました。

注1)DTP Desktop Publishingの略。パソコンでデータを作成し、印刷物を作成すること。
注2)エディトリアル 編集を意味する言葉。ここでは、編集構成を深く理解し誌面をレイアウトする、エディトリアルデザインのことを指す。
注3)言葉のデザイン オンスクリーンメディアにおけるタイポグラフィについて考えるJAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)の研究会プロジェクト。デザイナーの原研哉と永原康史が発起人となり、各分野の専門家を招き議論が行われた。2010年から2011年にかけて8回の講演を開催。
注4)トムソン型 打抜き加工に用いる型。この型で行う加工をトムソン加工といい、これにアメリカのトムソンマシン社製の打抜機が使われてきたことに由来する。

このインタビューの続きは……

6/6(日)開催のCOMITIA136で販売するカルチャーマガジン『faber! no. 1』で読むことができます。本の詳細はこちらをご覧ください。


書影

faber! no. 1
会場価格1300円/A4変形/42P
6月6日(日)COMITIA136
東京ビッグサイト青海展示棟Bホール[つ16a]

イベント終了後にはBOOTHでの販売を予定。
https://faber.booth.pm/


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