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米と日本人


はじめに

日本は古来、豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)と言われていた。これは豊かな収穫の続く、みずみずしい稲のできるすばらしい国という意味である。
豊葦原瑞穂国は大国主神が治めていたが、国譲りによって天照大御神の御子に譲られ、その見返りとして出雲大社が作られ、そこに大国主神が移り住んだ。
天孫降臨の際、瓊瓊杵尊は天照大御神から、八咫鏡・草薙剣・八坂瓊勾玉を授けられ、それらは皇位のしるしとして代々天皇によってうけつがれていることはよく知られているが、その際、斎庭の稲穂の神勅(ゆにわのいなほのしんちょく)により、高天原の清らかな稲を地上で作るようにも託されている。
稲穂と稲作は、高天原と同じように豊葦原瑞穂国が豊かになるようにとの祈りが込められた神さまからの大切な頂きものとして、我が国の食生活はもちろん、日本文化の基礎となって今日まで続いているのである。
稲の育成周期が日本人の一年ともいえ、2月には祈年祭という、春の耕作始めにあたり、五穀豊穣を祈るお祭りで、米を始めとする五穀の豊かな稔りを祈る祭典が毎年行われている。
この稿では実際の稲作の様子をほぼ1年かけて追いながら、わが国の伝統と文化、技術も見てゆきたい。

2023年6月4日の様子

初夏は田植えの季節である。それに先立ち、種もみから苗が作られる。苗を作り、水田に移植栽培をすることで、稲の成長を均一に早める。また、水をはることで雑草を防ぎ、種もみが鳥に食べられてしまうのを避けることができる技術である。

田植えが始まった

早苗は苗代から水田で植え替えるころの苗だ。6月の季語になっており、田植えの時期を表すのに適してると思う。

この時期、苗はこの大きさ

田植えの前には代かきが行われ、水田が平らになる。田植えのまえはあたかも池のようである。蛙も鳴き始め、その声は一帯に広がる。自然が奏でるシンフォニーといえよう。

ここはこれから田植え

またこの時期、夜景が水田に映え、アンコールワットを彷彿とさせる景色も広がるのである。

水田に映える夜景

神饌田

神饌(しんせん)とは神社や神棚に供える供物のことである。神饌に使われる米を育てる田は神饌田と呼ばれる。

橿原神宮の神饌田

筆者は2023年6月12日に橿原神宮に行く機会があり、その際、西参道鳥居の脇にある神饌田も訪れた。まだ田植え前だったが。橿原神宮では6月中旬に御田植祭が行われるので、やや早かったのであろう。

2023年6月後半の様子

田植えも進み、早く植えたところの苗は育ってきていた。

6月16日は晴天だった。
6月18日のとある水田。ここの苗は育ってきている。

2023年7月の様子

田植えから数週間もすると、稲の成長が明らかに分かる。7月は緑の季節だ。農家の方々は、この暑いなか、雑草をとって水田を管理しなければならないそうだ。体力を使う仕事だ。

7月9日の様子。水田が緑になってきた。
数週間で稲はだいぶ成長する。

7月はデリーの田植えシーズン

7月中旬はデリーでの田植えの季節であった。一年中暑く、種類も異なるのでわが国とは異なった時期に田植えするのだろうか。

夕映えの水田

外国で水田を見ると親しみを感じる。列車からなのでうまく撮れなかったが、夕映えの水田。
田植えは手作業でやっていた。機械化はまだ先の話のようだ。

2023年8月中旬の様子

8月中旬には、成長した稲が見られる。

8月14日の様子。

この時期、田植えが早かった水田では、すでに稲穂がついている。出穂(しゅっすい)である。田植えからの時間の違いがよく分かる。

左の水田には稲穂が見られるが、右はまだ。

日差しはじけ、日差しはじけ。それはのびる。青い彼方。彼方の向こうに見えてくる自分。自分の中に見えている彼方。伊藤海彦ののびるより引用。

ここの稲穂はもうこんなについている。

稲穂である。実りの秋までもう少し。無事に育って欲しい。

案山子がたってきた。

鳥対策の案山子もたってきた。鳥だけでなく、収穫期を狙った悪党どもからも守らなくてはならない。警察にはしっかり取り組んでもらいたい。

2023年9月初旬の様子

9月になると朝夕の気温が下がってくる。水田は緑から黄色へ変化してくる。

2023年9月3日の様子。

2003年9月中旬の様子

9月も中旬になると黄色が強くなってくる。みのりの季節である。

9月13日の様子。

だんだんと実りの秋に向かう。

落水だろうか。

水田の水もなくなってきた。落水の時期なのであろうか。落水は出穂から約30日後に水田の水を抜く作業である。稲刈りをしやすくするためだ。このあと約10日後に稲刈りの時期を迎える。2023年9月13日は天皇陛下が皇居の生物学研究所脇の水田でお稲刈りをされた。この稲は伊勢の神宮に奉納され、また宮中祭祀にも使われるとのことだ。ここももうすぐだ。

2023年9月下旬ごろの様子

9月下旬は稲刈りのシーズンである。6月から4ヶ月かけてようやく収穫になる。

稲刈りを待つ9月23日の様子。

稲穂には黄金色の籾がついている。8月中旬はまだ青かった。稲の葉や茎で作られる栄養分は籾に貯蔵され、この1ヶ月半くらいの間に登熟したのだ。葉や茎は使命を終え、枯れてゆく。稲というか籾なのであろうが、それらは植物珪酸体を持ち、その細胞がガラス質であるため、陽の光にあたると輝くのだそうだ。太陽によって輝くという、まさしくわが国を体現するかのような植物なのであろう。

籾がたくさんついた稲穂。

この時期、稲刈りは順次行われ、すでに終わっている田んぼもある。早すぎず、遅すぎない時期を見計らって刈り取られる。

稲刈りが終わると急に殺風景になる。

稲は刈ったあと、束ねて稲架にかけ、10日間ほど天日と風で乾燥をさせる。これを稲架かけである。自然乾燥により籾の水分が20-25%から15%に減少する。
その後、稲揚げ(輸送)し、脱穀、籾摺りにより、玄米となる

9月22日に雨が降ったため、水が残っているが、9月23日の稲の乾燥、稲架かけの風景。

9月23日は秋季皇霊祭である。天皇陛下が歴代の天皇、皇族の霊を祭る儀式を行う。皇室に限らず、日本人が墓参りをして、祖先の霊を供養する日でもある。こうしたわが国の風習と稲刈りの時期が重なるのは偶然ではなかろう。

9月から10月になると稲刈りも進み、風景が変わる。

10月1日の様子。
稲架かけは続く。
9月30日、まだ刈られていない田んぼ。

暑かった2023年の夏、やっと朝晩は涼しくなり、エアコンなしでも眠れる日が増えてきた。

神嘗祭と新嘗祭

2023年は10月17日が神嘗祭、11月23日が新嘗祭である。

神嘗祭の起源は古墳時代である5~6世紀に遡る。秋に収穫を神々に感謝する祭祀であり、いまでも全国の神社で行われている。伊勢の神宮での神嘗祭は、賢所に新穀をお供えになる神恩感謝の祭典で、朝、天皇陛下は神嘉殿において伊勢の神宮をご遙拝になる。伊勢の神宮では最も重要なお祭りで、神宮で最も古い由緒をもち、天皇陛下の大御心を体して、天照大御神に新穀を奉り収穫の感謝を捧げる祭典である。10月15日から17日にかけて行われる。すなわち天皇陛下は最終日の17日にご遥拝されるのである。

新嘗祭は、天皇陛下が、神嘉殿において新穀を皇祖はじめ神々にお供えになって、神恩を感謝された後、陛下自らもお召し上がりになる祭典だ。宮中恒例祭典の中の最も重要なものであり、天皇陛下自らご栽培になった新穀もお供えになる。すなわち、新嘗祭までは天皇陛下は新米を召し上がらないのである。
また、天皇陛下が即位されて最初の新嘗祭は大嘗祭と呼ぶ。

終わりに

桜も散り、すっかり春になった。

2024年4月20日は農協春まつりで、この日だけはあぜ道に路駐が見られる。

この1年、稲の成長を定点観測するとともに稲作にまつわる伝統と技術をみてきた。わが国は瑞穂の国である。その根幹をなす米作りを毎年意識してゆこうではないか。
(Apr/2024)










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