見出し画像

国境を越えていく

 最近、元の職場の夢を見る。思い返す時間が増えている。考えてみると、3月末に退職しておおよそ半年。思い返すには、それくらいの時間が私には必要だったということなのかもしれない。

 一方で、この半年間、新しい仕事の準備を始めていて、ようやくそのスタートラインに立てるというところまで来ている。後はローンチするだけというような時点を前に、私の中にある種のためらいのようなものがあるのかもしれない。

 3月に職場を離れたことはある意味、住み慣れた村を出たということで、この半年間は国境を目指して一歩ずつ進んできた道のりという感じ。
 で、ようやく目指す国境のところまで来て「さあ、ここを越えると、もう戻れないよ」というラインを渡ろうとしている。たとえるとそんな感じだ。

 これまでだって、元いた村に戻る選択肢はなかったんだけど、絶対に戻れないラインを渡る覚悟というか、決意みたいなものを前に、私はちょっと揺り戻しの感情を味わっているんだと思う。

 先日、ちょっとした良いお知らせがあって、前の職場でパートナーだった人にLINEで報告をした。過去に二人で取り組んだことに関する良いお知らせだったので。
 私は少しだけ期待していた。「どうしてんの?元気?」みたいなやり取りを。でも、現実は違った。

 私の短い報告に、彼はスタンプで返してきた。それに私はまた短文で返信したんだけど、彼はまたスタンプで返してきて、私もスタンプを送り返して、やり取りは終了した。あっけなく。
 結局、彼のメッセージはスタンプのみだった。そのことに私はがっかりしたし、淋しくも感じた。

 もう終わったことなんだな。

 それをしみじみ感じたからだ。ただ一方で、期待通りのやり取りだったなら、国境を越える勇気が萎えたかもしれない。だから薄いやり取りで良かったのかもしれない。そうも感じた。

 考えてみると、国境なんてひとが勝手に地面に描いた線に過ぎない。なのに縛られている、こころが。もうすでに村は遠く背後になっているのだ。この線を越えることくらい、これまでの距離に比べれば、なんてことない。

 頭ではよく分かっているのに、こころは不思議だ。

 明日から10月。私の新しい仕事もいよいよ始まっていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?