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私のためのハンバーグ

夫の突然の入院から10日ほど経つ。

夫の代わりに仕事を引き受けたり、二人でやってきた仕事を自分一人でしないといけなかったりして、この10日間で2キロやせた。あんなに瘦せられなかったのに(笑)。

急な入院だったので、食材が冷蔵庫にぎっしり。食材消費のためにも、自分が体力を落とさないためにも野菜多めの自炊を続けてきた。
そしてようやく迎えた休日。

なんか誰かが作ったおいしいものを欲している自分に気づく。
「ああ、誰かが作ってくれた温かくておいしいものを食べたい」と切実に思う。

私は一人でお店に入るのが平気なタイプ。夫と時々、食べに行く近所の洋食屋さんが思い浮かぶ。いつもていねいな仕事ぶりで、ぷち贅沢をした感じが味わえる、あのお店。
そうだ、あそこにランチしに行こう。

お昼のランチはハンバーグとエビフライというゴールデンコンビを注文。
お客は私ひとり。
厨房の奥から私のためのハンバーグをペチペチ(空気抜き)している音が聞こえてくる。
これ、これ!これが幸せなんだよ。

ほどなく湯気の立つ、おいしそうなお皿が目の前に運ばれてくる。
ああ、おいしいなぁ。来てよかったなぁ。
食べ終わるのがもったいないくらい幸せな時間。

食べながら、ふと最近、知り合いになったうどん屋の女将さんのことを思い出す。
「一日何十食と作って提供させてもらっているのですが
この食事がその人の人生の最後の食事になるかもしれない。
大げさかもしれないけれど、そんなことを考えながら、ていねいに良いものを提供したい、といつも思っています」
彼女がそんなことを話してくれて、私はとても感動した。
「そう考えると、私たちは単に食べ物を提供しているのではないという気がするんです」女将さんはそう付け加えた。

そして、その洋食屋さんにも同じような“こころ”を感じるのだ。
だからお腹もこころも満たされる。
今の私のように、突発的なアクシデントにちょっと参っているような心身にしみる食事を提供してくれる。そう思えるお店。

うどん屋の女将さんの話を思い出しながら、私は皿に残ったデミグラスソースを最後のごはんの上にちょこっと乗せて食べきった。

「とてもおいしかったです」と言って支払いを済ませると、ようやく12時になり、次々にお客さんが入店してきた。
静かで、満たされる、今の私に必要な、極上のランチだったな。

病院食しか食べられない夫には申し訳ないけれど、私が元気でいるためのランチ。
ごちそうさまでした。


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