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やってみたいことを伝える

 先日、遠方の学校から講義の依頼が来た話を書いた。そういう話って、それが届いた瞬間から“その時間”が始まる。

 たとえば、街を歩いていても、朝早く目が覚めた時も、その授業で何を話そうかとふと考えている。そういう意味で、もう私の中で“その時間”が始まっている。

 以前にも書いたけれど、そんな私の話を聞くのが夫はとても上手だ。私の思考や気持ちがあっち行き、こっち行きするのに、退屈せずに付き合ってくれる。昨日もスタバでコーヒーを飲みながら、私の思いつきを話していたら、「それ、ええやん。俺が学校の先生やったら、その話を学生に聞かせてって言うと思う」と言ってくれた。…ああ、なんて良い人なんだ。

 その時に話したアイデアというのが、以前から自分のやってみたかったことで、いま大学で勉強していることが生かせそうな内容なので、私には自分のやりたいことを学生で試すみたいなことしていいんだろうかみたいな感覚があった。でも、夫に「それ、ええやん」と言われて、学校の先生に提案してみる勇気がもらえた。

 私のやってみたいこと。それはまだうまく言葉になっていないのだけれど、ここでがんばって言葉にしてみることにする。

 これまで30年間、精神科に勤務して患者さんたちのケアをしてきたのだけれど、今度は精神疾患の予防・早期対処的なところに自分の経験知を活かしたいと考えている。というのも「自分のこころのケアについて早いうちに学んでいれば、ここまでつらい思いをしなくて済んだだろうなぁ」と感じる患者さんがいっぱいいたからだ。
 学校教育の中で“自分との付き合い方、自分を大切にする方法=メンタルケア”について、いくらかでもサジェスチョンがあればメンタルの調子を崩しても、早めの対処で重症化を防ぐことができる。

 私たちは子どもの頃から風邪というものを知っているからこそ、風邪を引けば医者に行ったり、薬を飲んだりするわけで、肺炎になるまでに何らかの手を打つことができる。でも知らないと手の打ちようがないわけで、周囲が慌てるような事態になってからでは生活に支障が出たり、完治が難しいということになったりする。

 そんなわけで、すでに生活に支障が出たり、完治が難しくなったりした患者さんをたくさん見てきて、今度は予防のほうに力を入れたくなっている自分がいる。

 高齢者に対するフレイル予防というのを聞いたことがある人もいるかもしれない。日常の中に運動を取り入れることで衰弱→要介護状態になるのを未然に防ぐというもので、なってからリハビリするのではなく、なる前にリハビリするという考え方のもと全国に普及しているのだけれど、こころのケアにも同じようなことがあっていいんじゃないかなと思っていた。

 で、話を元に戻すと、今度の授業で学生たちを相手に、その予防にあたるような講義をしてみたいと考えている。これから病院実習に出る彼らに、自分のこころのケアについて知っておいてほしいし、どのような状態になったらSOSを求めるのがいいのか、事前に考えておいてほしいと思っているからだ。

 実習の間だけでなく、医療従事者はいつでも、どこでも、ある種のストレスにさらされている。ひとの生死に立ち会ったり、患者さんや家族からの期待に応えなければならなかったり、ケアがうまくいかなくて悩むことだってある。

 私自身、過剰適応でしんどくなって休職した経験があるけれど、それは良いとか悪いとかではなくて、対処だと考えれば、その時の自分には必要なことだったと思う。

 そういうアレコレは現場に出てみないと分からないことだけど、学生さんたちが現場に出る前に「ああ、私ってこんな風になった時がSOSなんだな」と心づもりしておくことって、悪くないような気がする。実習に送り出す先生たちも、学生が早めにSOSを出してくれた方が助かるんじゃないだろうか。

 もちろん、私が学生の頃はそんな授業なかったし、他の学校でも実習前にそういう講義を受けさせているというところは聞いたことがない。そういう意味で前例がないので、私自身、どうしたものかと思っていたところ、夫が背中を押してくれた。

 なので、学校の先生との打ち合わせで打診してみようかと思っている。うまく話せるかな。ドキドキするけど、ちょっとがんばってみようかと思う。

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