THE UPSIDE OF STRESS-introduction-

邦題は「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」、著者は心理学者のKelly McGonigalさんです。オリジナルのタイトルである「THE UPSIDE OF STRESS」を翻訳するなら、「ストレスの隠れた利点」と言ったところでしょうか。一般的に、ストレスは害悪であり、できれば避けるべきものだと考えられています。ところがこの本では、「ストレスは人を成長させ、勇気や思いやりを呼び起こすものでもある」と説かれます。本著の内容は、そのように上手くストレスを活用するためのメソッドと、それを裏付ける科学的な研究の紹介となっています。

ストレスの定義について

本著で紹介されるメソッドは、あくまで科学に基づいたものであることが強調されます。科学はその再現性を担保するため、そこで用いられる言葉には厳密な定義が要求されます。ところが、「ストレス」という言葉は日常的にかなり広い意味で使われています。例えば、交通渋滞に捕まってしまった時のイライラした気持ちから、家族を失うことによる喪失感までが、ストレスという言葉で表現されてしまうのです。つまり、ストレスは科学的に取り扱うにはあまりに意味が広すぎる言葉なのです。

それでも著者はこの言葉を使うことにこだわります。というのも、ストレスという言葉はあまりに深く広く社会に浸透している訳ですが、その言葉がぼんやりと発するイメージが社会全体に悪い影響を与えているのです。そこで、そのストレスという言葉をアップデートすることが出来れば、社会に大きな影響を与えることができるのではと考えたのです。

それでは、Kelly McGonigalさんのストレスの定義を確認してみましょう。

Stress is what arises when something you care about is at stake.
ストレスとは、あなたが何か大事に思うようなものが危機に瀕している時に生じるものである。

ここで重要なのは、ストレスと"something you care about"が一体であることです。つまり、あなたが興味を抱かないものからストレスは生まれないのです。これを逆から言えば、ストレスがないような人生はつまらないということが出来るかもしれません。

もしかすると、あなたはこう思ったかもしれません。「要するに、人生楽ありゃ苦あり、そう言うことでしょ?」と。しかし、この解釈は誤りだと思います。なぜならこの定義には、ストレスが必ず悪い影響を、つまり「苦」を生じさせるものであるとは定められていないからです。

言葉遊びのように聞こえたでしょうか?そうかもしれません。しかし、言葉遊び自体に意味があったとしたらどうでしょう?

思い込みが人体に影響を与える

Kelly McGonigalさんも以前は「ストレスは害悪であり、なるべく避けるべきものである」という考えでした。しかし、ある研究との出会いをきっかけに、その考えを改めることになります。

1998年に行われた実験では、アメリカで3万人の被験者が次の2つの質問を受けました。

(1)過去1年間の間に、どの程度のストレスを経験しましたか?
(2)あなたは、ストレスは体に悪いものだと思いますか?

その8年後、研究者たちは3万人の被験者の死亡数をカウントしました。その結果、(1)の回答により強いストレスを感じていたと判断された人たちの死亡のリスクは、そうでない人たちと比べて43%高いことが分かりました。ところが、(2)の回答により、「ストレスは体に悪いものではない」と考えていた人々からは、そのような死亡リスクの上昇は確認できませんでした。それどころか、ストレスは体に悪くないと考えていた人々は、多くのストレスを経験している場合であっても、ストレスをあまり経験していない人たちよりも死亡率が低かったのです。

上記の研究により、科学者たちは「ストレスだけでは人に害を与えることはない。ストレスとそれを害悪だと解釈する考え方の組み合わせこそが危険なのだ」と言う結論に達しました。つまり、「ストレス」という言葉をどう解釈するか、言葉遊びのようなその差異が物理的な身体に影響を与えていたのです。

ストレスの新たな回路を創造する

ストレスをどう解釈するか、そのアップデートを試みるKelly McGonigalさんの野心に触れ、私は尊敬する批評家の東浩紀さんのツイートを思い出しました。

Kelly McGonigalさんが本著「THE UPSIDE OF STRESS」を通して行おうとしていることは、まさに東浩紀さんの定義する批評家の営みのように思います。「ストレス」という言葉が繋ぐ出来事と体験の経路を組み替える、そのような試みです。

introductionの最後は次の文章で締められています。

Focusing on the upside of stress transforms how you experience it physically and emotionally. It changes how you cope with the challenges in your life. I wrote this book with that specific purpose in mind: to help you discover your own strength, courage, and compassion. Seeing the upside of stress is not about deciding whether stress is either all good or all bad. It’s about how choosing to see the good in stress can help you meet the challenges in your life.
ストレスの良い面に注目すれば、あなたの困難を巡る体験は精神的にも肉体的にも変質します。人生における困難への向き合い方が変わるのです。その時、あなたが今まで気づかなかった自分自身の力や勇気、そして優しさを発見してくれたら…そう思って本書を書きました。ストレスの良い面を見つめるということは、ストレスは完全に良いものだとか、あるいはその逆だとかいう話しではありません。そう意識することが、あなたのチャレンジに役立つということなのです。

最後に

ストレスについての研究、そしてそれに基づいた新しい解釈により世界の見晴らしがよくなることを期待しつつ、本著を読み進めていきたいと思います。またある程度読んだところで、自分の感想をnoteに書き溜めていこうと思います。

本書を英語で読み進めているのですが、私の英語力はなかなか怪しいレベルなので、明らかに誤った読み方をしていることもあるかもしれません。その際は、軽く突っ込んでいただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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