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【比較認知研究】犬の「性格」・初期研究と研究法【論文レビュー】

【比較認知研究】犬の「性格」・初期研究と研究法【論文レビュー】
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 私たちの身近に暮らす犬や猫。彼ら彼女らの「こころ」に、心理学はいかに迫っているのでしょうか。

 「心理学評論」誌・65巻3号(2022年)特集「伴侶動物のこころを探る」に掲載されたいくつかの論文をご紹介しつつ、犬好き猫好き動物好きの皆様と一緒に「犬と猫のこころ」を学んでいきたいと思います。

 今回は、「犬の性格」についての初期の研究と、主な研究手法について、論文を基にまとめてみたいと思います。

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【論文】
今野晃嗣 2022 イヌの「性格」に関する研究の展開 心理学評論65(3) pp.270-292.

【本文】
 犬の性格研究(着眼点や研究手法)に影響を与えた重要な初期研究をいくつか紹介します。

 「パブロフの犬」で有名なPavlov,I.は20世紀前半に、犬の性格を最初に体系的に分類しました。実験室で飼育した犬の生理・行動の一貫したパターンを「気質」と呼び、犬の気質を「興奮型」「快活型」「平穏型」「抑うつ型」の4つに分類し、それらは犬の神経系の活動に由来し、連合学習の成立のしやすさとも関連する、という仮説を提示しました。心理学と生理学とにまたがる性格研究への契機となり、また性格と認知・学習との関連について示唆するものでもありました。

 Scott,J. & Fuller,J.は20世紀半ば、環境を統制した実験室で飼育した5犬種の、身体面・行動面の発達を観察しました。同じ環境で育てられた犬でも、犬種によって多くの行動に差異が見られ、犬の性格に遺伝要因が関与することが実証されました。また、異なる犬種を交配させたところ、行動形質の発現は極めて複雑であり、犬の性格における遺伝要因は、単一の遺伝子ではなく複数の遺伝領域が関与する量的遺伝であることが示唆されました。

 Hart,B. & Hart,L.は20世紀後半に、飼い主が問題行動と見なす13の性格特性を抽出し、96名の専門家に7犬種を無作為に割り当てて評価し、各犬種を相対的に順位付けするという方法で、56犬種における性格特性の相違を調べました。その結果、犬種ごとに顕著な差がみられ、また因子分析により、13の特性は4つの上位カテゴリーに集約できることが見出されました。

・過敏性、一般的活動性、無駄吠え、子どもを咬む、人なつこさ
 →「機敏性」
・なわばり防衛、警戒吠え、他犬への攻撃性、反抗性 →「攻撃性」
・服従性、トイレのしつけ →「訓練性」
・遊び好き、いたずら好き →「探索」

 これらの初期研究を踏まえ、さまざまな性格心理学的研究が行われていますが、主な研究手法は、行動評定法と質問紙調査法(行動記述と、形容詞によるものとがある)です。

 行動評定法は、実験設定を提示(知らない人物が現れ遊びに誘う、銃声が鳴る、など)し、熟練した評定者が犬の行動を観察し、設定した行動変数の強度を、5件法で評価するものです。スウェーデン作業犬協会によるDMAが代表的なものです。

 行動記述による質問紙調査は、C-BARQなどが代表的なものであり、行動記述で構成される質問紙に、飼い主や養育者が5件法で評定していくものです。

 形容詞による質問紙調査は、形容詞を含む短い記述について、飼い主が当てはまるものと程度を回答するものです。いくつかのツールが開発され、信頼性・妥当性が確認されています。

(つづく)

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