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【比較認知研究】犬の「性格」とは何か【論文レビュー】

【比較認知研究】犬の「性格」とは何か【論文レビュー】
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 私たちの身近に暮らす犬や猫。彼ら彼女らの「こころ」に、心理学はいかに迫っているのでしょうか。

 「心理学評論」誌・65巻3号(2022年)特集「伴侶動物のこころを探る」に掲載されたいくつかの論文をご紹介しつつ、犬好き猫好き動物好きの皆様と一緒に「犬と猫のこころ」を学んでいきたいと思います。

 今回からしばらくの間、「犬の性格」について、研究の経緯や得られた知見、犬の性格の獲得過程などについて、論文を基にまとめてみたいと思います。

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【論文】
今野晃嗣 2022 イヌの「性格」に関する研究の展開 心理学評論65(3) pp.270-292.

【本文】
 犬の行動や感情表出には、個体差(個性)があります。人の場合、行動や感情に見られる個体の特徴を、素朴に「性格」と呼び、心理学的研究の対象となってきました。人以外の動物においても、その個体差を「性格」とみなし、心理学的研究を適応することができるものと考えられています。

 生物は、環境や状況に応じて行動を柔軟に最適化すると考えられ、個体差は、最適な適応行動からの逸脱、すなわち誤差と考えられてきました。ところがこの誤差は、多くの生物種に見出されており、個体の適応度を左右するだけでなく、進化や種の分化にも影響を与えうるものです。一例では、オスで「大胆な」性格を持つものは、繁殖成功率は高いが生存率は低いことが、メタ解析で見出されています。

 このような個体差(以下「性格」と表現)の遺伝的基盤が明かされることが大切で、犬を含めたさまざまな生物種を対象に研究が進められています。
 犬の場合は、2005年までに全ゲノム解析が行われ、「現代の犬の祖先はオオカミであり、数万年前にオオカミから犬への分化がなされた」こと、そして「数百年続く人為的なブリーディングにより犬種の多様性がもたらされた」こと、すなわち犬は発生的に2段階の遺伝的変遷を経ていることが見出されました。

 犬の家畜化には、犬の「従順性」や「情動反応性」といった性格が関与していると考えられます。アカギツネの選抜育種実験では、人に慣れやすい従順なキツネを選択的に交配すると、その系統では、従順な個体が増えるだけでなく、外見上「犬に似た」形質(白斑・たれ耳・巻尾など)を持つ個体が生まれるようになり、闘争逃避的反応が減る一方で人が発する社会的信号への感受性は増す、という結果が示されました。犬の場合も、家畜化の過程で同様の選択圧がかかったものと推測されます。

 犬の性格研究が進むことで、動物福祉の観点から、犬種や個体ごとの生活の質を担保する手掛かりを得ることができます。また、作業犬や補助犬の適性判断や育成の手掛かり(特定の作業に対する犬の適性は、嗅覚などの感覚能力や敏捷性などの身体能力よりも、性格や行動により依存することが見出されています)をつかむきっかけにもなります。

(つづく)

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