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準備不足は、就労の大敵

準備不足は、就労の大敵
(「精神障がい当事者の就労支援あれこれ」シリーズ#45)

 精神障がい当事者への就労支援の「魅力と課題」を記すシリーズです。精神障がい当事者の方々にとっての、職場定着・就労継続の難しさと、健やかに働き続ける工夫などをまとめています。

 今回は、準備不足は職場定着・就労継続の大敵だ、というお話。

 病気・障がいと付き合いつつ働き始める(働き続ける)皆様への、エールのつもりでまとめています。どうぞご覧ください。

1.働くには、周到な準備が大切

 働くには、周到な準備が大切なのは、言うまでもありません。

 「働く準備」とは、一般的には、「自身のニーズとリソースの明確化」と「労働条件や待遇、果たすべき職務などの把握」、そして両者のすり合わせ(求職)でしょう。リソースが足りないのであれば、それを増していく努力(学習や訓練など)も必要です。

 新卒の学生さんであれば「自己分析」や「企業研究」などを一生懸命やるでしょうし、「インターン」に出て、企業と自分の相性を確かめる場合もあるでしょう。

 家庭の主婦(主夫)が改めてパートに出ようと思ったら、扶養の中に納められるか、などを検討するかもしれません。

2.精神障がい当事者の方にとっての準備

 精神障がい当事者の方にとっても、必要な準備の内容に、大きな違いはないように思います。ただし、障がいの特性を踏まえた“工夫”をすることが大切ではあります。

 精神障がいは中途障害であり、それまでの自己像からの転換を迫られると同時に、社会的経験を積むことに制約が出てくる場合があります。ですから、働くことについての自らのニーズ(なぜ働くのか、どのように働きたいのか)とリソース(得意不得意など)を掴む機会が少なくなりがちです。

 過去記事で「職業準備性」という考え方をご紹介しましたが、身につけておくべき力量は、一般の求職者とはやや異なるといえます(病気や障がいによって影響を受ける「健康管理」や「日常生活」、「コミュニケーション」などが重視される)。

3.“時間をかけて”準備する大切さ

 当事者の方の中には、就労を焦るあまり、短期間で結果(就職)を出すことを求める方が、結構いらっしゃいます。

 その心情は充分に理解した上で、やはりある程度の時間をかけて準備することをお勧めします。このことは、(一般論としてそう言える、というだけでなく)精神障がいの特徴から説明できるものです。

 妄想のある方(統合失調症など)の認知の特徴に、少ない証拠で一足飛びに結論を導いてしまう「結論への飛躍(jumping to conclusion)」があると言われます。もう一つ、精神疾患をお持ちの方は、現実をさまざまな角度から検討し、複数の選択肢から最適な解を選び出す「発散的思考」の障害がある場合があるとも言われます(いずれも、全ての当事者に当てはまるわけではない)。

 様々な可能性を十分に検討できず、一足飛びに就職を決めてしまえば、働き続ける上で問題が生じる可能性が高まるのは、言うまでもないことです。

4.“準備など必要ない”とする立場もあるが…

 障がい者の就労支援において、“準備など必要ない”と主張する立場も、実は存在します。

 一つは、現在の就労支援システムが、当事者にとっては搾取的である、と指摘する立場です(就労継続支援B型事業所の工賃が安すぎる、などという主張)。

 もう一つは、就労支援施設で事前準備を重ねるよりも、とにかく職場を与えて、現場で手厚く支援することで結果を出そうとする立場です。

 後者は「援助付き雇用(英語の頭文字を取りIPSという)」といわれ、海外ではそれなりの実績を出し、日本でも試行されています。

 個人的には、IPSは理念的に優れた考え方である一方、現実に取り組もうと思えば社会的コストが大きすぎると考えます。障がい者の就労支援という枠組みを超えて、働く現場でのOJTの充実として、さらに検討されるべきものではないでしょうか。

(つづく)

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