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【シリーズ・摂食障害8】家族に責任はない、ということ

【シリーズ・摂食障害8】家族に責任はない、ということ
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、8回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 前回から、「摂食障害9つの真実」としてまとめられた内容を、一つひとつ概観しています。今回から、2番目の項目、「摂食障害と家族」について取り上げます。内容がボリューミーなので、数回に分けて掲載します。

1.摂食障害に「責任を感じる」家族


 「9つの真実」の2番目には、「摂食障害の責任が家族にあるわけではなく、治療においてはむしろ、家族は患者や医療者の一番の味方になりうる存在でありうる(Families are not to blame, and can be the patients’ and providers’ best allies in treatment.)」とありました。裏を返せば、この項目は、(我が子を)摂食障害にさせてしまったという家族(親)の自責があることを意味します。その上で、摂食障害の原因を“養育の間違い”に求めるのは誤りだ、と指摘しているのです。

2.社会の理解はどうなっているのか


 一般女性における、摂食障害に対する認識を調査した研究論文があります(小原ら 2020)。当時日本有数の美容施術会社の会員女性を対象に、WEBアンケートを実施したものです。対象者の属性は、20歳代をピークに、10歳代から50歳代と、若年に寄っていることには留意しておく必要があります(摂食障害を発症しうる世代の子の養育経験が乏しい世代だ、ということ)。反転項目を含む12個の質問に、4件法(そう思う-少しそう思う-あまりそう思わない-そう思わない)で回答するのですが、その質問項目の中に「摂食障害は母親の育て方が原因だ」というものがあり、誤答の割合(そう思う、少しそう思う、と回答した割合)は20.9%だったのです。この数字が大きのか小さいのかは判断できませんが、摂食障害の原因を養育(特に母親)に求める理解が、ある程度残っていることが示唆されます。

3.精神疾患の原因を養育に求めた時代背景


 精神疾患の原因がまだよく分かっていなかった過去には、その原因は「魔女だったんだ!」(中世ヨーロッパ)や「先祖の行い」(私たちの祖父母くらいの時代の日本)に求めたりしたのですが、比較的最近まで「育て方(家庭での、母親の養育)」に求める考え方がありました。数十年前までは「母原病」という言葉まであったのです。

 今日では、統合失調症を始めとする精神疾患の、神経学的機序が明らかになってくるにつれ、精神医学の世界では「母原病」論は否定・放棄されていきました。当然、摂食障害においても、発症の原因を養育に求めることはできません(そもそも世の中に完璧な子育てなど存在しない)。

 ちなみに、病気と家族とのネガティブな関係を表す言説に「血を引き継いでしまった(遺伝させてしまった)」というものもありますが、遺伝と発症・経過との関係は、「9つの真実」でも後に触れられているので、その時に改めてご説明したいと思います。

 もちろん、子どもの発達や健康に対し、養育者(遺伝=体質も)が与える影響は大きいことはいうまでもありません。摂食障害と家族に関わるもろもろであっても、その一般的な理解の枠内で考えればいい、と思われます。摂食障害と養育との関係が特段に取りざたされがちな理由には、摂食障害が思春期(養育の集大成が近い時期)に好発する、という事情もあるでしょうね。

4.極端な養育と精神疾患

 念のために付け加えるのですが、虐待があった、逆境的な生育環境に置かれていたなど、極端な(不適切な)養育と精神疾患との関係は、米国のACE研究(逆境的な生育が、長期にわたり心身に悪影響をもたらすことを実証的に明かし、その機序をモデル化した)や、BEIP(ブカレスト早期介入プロジェクト:ルーマニア・チャウシェスク政権下で劣悪な社会的養護環境に置かれていた子を救出し、再養育を試みた一連の実践と研究)などを通して、すでに明らかになっています。当然ですがこの場合は、逆境的な環境から救出すること、虐待に適切に対応することが求められます。

引用文献
小原千郷、鈴木(堀田)眞理、西園マーハ文ほか 2020 一般女性における摂食障害の認識調査-病名認知度と誤解・偏見- 心身医学60 pp.162-172.

(つづく)


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