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精神障がいの特徴と職場定着・就労継続の難しさ

精神障がいの特徴と職場定着・就労継続の難しさ
(「精神障がい当事者の就労支援あれこれ」シリーズ#44)

 精神障がい当事者への就労支援の「魅力と課題」を記すシリーズです。精神障がい当事者の方々にとっての、職場定着・就労継続の難しさと、健やかに働き続ける工夫などをまとめています。

 今回は、職場定着・就労継続の難しさとその対応について、精神障がいの特徴から考えてみます。

 病気・障がいと付き合いつつ働き始める(働き続ける)皆様への、エールのつもりでまとめています。どうぞご覧ください。

1.身体障がいや知的障がいと比較した、精神障がいの特徴

 慢性の精神疾患におかかりの当事者を「精神障がい者」と呼ぶことがあります。回復までに時間がかかることに加えて、精神神経機能だけでなく、活動や参加にも障りが出てしまうことが、「障がい」の定義(ICFなど)に合致するからです。

 身体障がいや知的障がいなどと比較した、精神障がいの特徴(主なもの)を、あげておきます。

・中途障害である(生まれつきでない)
・障害が目に見えにくい
・疾病と障害が併存する
・個人差が大きい

 その結果、ご本人も周囲の人たちも、障がいや生活のしづらさを受け止め理解するのが難しい、という状況が生まれます。精神障がいによる“真のハンディキャップ”は、この点=理解の難しさにあるのではないかと思います。

2.自己理解の大切さ

 私たちは、生活の中で様々な経験をし、自分の中で意味づけながら自己を育てていきます。

 精神障がいをもつということは、それまでの自己像の“書き換え”を迫る重大な体験です。同時に、精神疾患を持つことで社会生活に制限が生まれれば、自分を理解するための社会的な経験をする機会が減ることになります。

 結果的に、当事者自身が“ありのままの自己像”からかけ離れた極端な認識(障害を否認・軽視したり、逆に過剰に深刻視したり諦めきってしまったりする)を持ちがちで、周囲も当事者をまっとうに理解することが難しい(時に偏見の対象としたり、過度に保護的になったりする)場合があるのです。

 就労支援においては、障がい者自身が、自分の状態や力量をまっとうに理解していることを重視します。苦手なこと、できないことがあっても、そのこと自体を充分に理解し、助けを求めることができていれば、本人も周囲も、職場で大きく困ることはないはずだからです。

3.「調子の波」がある

 精神障がいでは、「調子の波」がある、とよくいわれます。これは考えてみれば不思議なことですが(身体障がいや知的障がいでは、このようなことは起こりにくい)、これは「疾病と傷害の併存」という、精神障がいならではの事情によるものです。

 ほとんどの身体障がいでは、原疾患が治癒したあとに遺ってしまった「障がい」に注目します。脳梗塞の治療が終わっても、残った「麻痺」が生活の障りになる、といったものを「身体障がい」と呼ぶわけです。一方、精神障がいの場合は、原疾患(統合失調症などの精神疾患)の治療は続けつつ、精神障がいと付き合う、といったことが求められます。疾患と障がいが同時に存在(併存)しているわけです。

 病気の状態には、当然波があります。インフルエンザに感染し発熱している場合も、熱は上がったり下がったりします。精神疾患の場合も同じで、体調や環境のストレスなどに反応し、病状には波があります。そして精神障がいも、病状の影響を受けて「調子の波」が生まれるのです。

4.「調子の波」を理解し対処することが大切

 働き続けるために、「調子の波」をどのように考え、対処したらいいのでしょうか。大きくポイントは二つあります。

 一つ目は、「調子が悪い」ことに気づき(予測し)、対処する力を究めることです。休む、頓服を飲む、気分転換をする。どんなことでも構いません。自分だけで対処できなければ、話を聞いてもらう、仕事の負担を一時的に軽くしてもらうなど、周囲の力を借りてもよいのです。

 二つ目は、働くときには「調子が悪い時の自分をデフォルトにする」ことです。調子の波が大きい時、「調子が良ければ、もっとできるのに」と考えがちですが、業務遂行の安定性を考えれば、「どんなに調子が悪くても、これだけはできる」という水準で、就労を考える必要があります。

5.「個性」を理解し、仕事に活かす

 精神障がいの場合、生活のしづらさの内容や程度には、個人差があります。同じ統合失調症でも、陰性症状が強く活気が出ない方がいれば、過活動でまとまりなくなりがちな方もいます。自分自身も周囲も、自分の個性を理解し、就労に活かす姿勢が大切ではないでしょうか。

 「個性」は、何らかの“鏡”に映し出すことで、理解が促されます。自己理解や、そのために社会的な体験を重ねることの大切さを、改めて指摘しておきます。

(つづく)

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