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精神障がい当事者が活躍するには、職場の同僚の理解が不可欠

精神障がい当事者が活躍するには、職場の同僚の理解が不可欠
(「精神障がい当事者の就労支援あれこれ」シリーズ#49)

 精神障がい当事者の方々の職場定着・就労継続を可能にする(促進する)条件について考えています。今回は、精神障がい当事者が健やかに働き続けるためには、同僚の理解がとりわけ大切だ、ということについてです。何かと難しいのだけれど、実は最も大切な話かもしれません…。

 病気・障がいと付き合いつつ働き始める(働き続ける)皆様への、エールのつもりでまとめています。どうぞご覧ください。

1.働く精神障がい当事者の周りには、「同僚」という立場の人たちがいる

 精神障がい当事者の就労支援では、当事者自身が中心にいらっしゃり、その周囲で医療、就労支援機関、企業が連携して支援にあたる、という構図になっていることは、言うまでもありません。

 このうち、障がい者を雇用する企業では、トップが受け入れの方針を決め、現場の実務担当者(人事労務担当であったり、ジョブコーチ的な支援者だったりと、企業により異なる)が実際に支援に当たるわけです。それ以外の大多数の社員の方々は、直接の支援者とは異なる「同僚」という立場になります。

 実際の職場では、隣の席の人たちの間で、インフォーマルな“助け合い”(ちょっとこれ代わってくれると助かるんだけど、的な)が日常的に交換されているわけで、精神障がい当事者の就労においても、「同僚」レベルでの理解と“助け合い”も大切だ、ということは自明のことです。

2.就労支援では、「同僚」の視点が欠けているのかもしれない

 こんな当たり前のことを改めて記したのは、「就労支援の理論・方法論において、『同僚』の視点が欠けているのではないか」と気づいたからです。

 これまで私自身、精神障がい当事者の就労支援について、数多くの記事をアップしてきたにも関わらず、「同僚」にきちんと言及したことはありませんでした。

 就労支援のマニュアルやガイドブックの類でも、「同僚」の役割の大切さに焦点を当てた記述はほぼ見当たりませんでした(何か資料をご存じの方は、お教えいただけると嬉しいです)。

3.「同僚」の受け取り方と、当事者の方にできること

 私たちは、ストレス状況下で、「恐怖」を感じれば「すくんで」しまうし、「怒り」を感じれば「威嚇・攻撃」モードで身構えます。

 職場に精神障がい当事者を迎えたとき、同僚の受け取り方と反応も、大きくこの二つがあるのではないかと思っています(こから先の記述は、主に、自部署にメンタルヘルス失調者を何度か迎えた私(と同僚)の経験に基づくもので、公共性は乏しいかもしれません、悪しからず)。私は部門のトップ(中間管理職)ですから、私自身は「同僚」の立場ではなく、同僚たちとの関係をつぶさに観察した、ということです。

 まず、「どう接したらいいのかわからず、とにかく距離をとってくる」、といった反応があるのではないでしょうか。これは先の「すくみ」に対応したパターンでしょう。このパターンに対しては、急に距離を縮めずに、挨拶や報・連・相を地道に続けていくことと、同僚から働きかけがあった時を見逃さずポジティブに返答(「職場に受け入れてもらった実感がします、ありがとうございます」とか)するとよいと思います。

 もう一つ、軽い「威嚇・攻撃」モードで接してくる、という場合もあります(「そんなこともできないの?困ったなあ」「眠そうだし表情暗いし、もっとやる気出してほしい」などと陰に陽に言われるような場合)。

 この「威嚇・攻撃」モードが著しい場合には、職場に対し法に基づく適正な対応(ハラスメントとしての対応や、障がい者への合理的配慮の提供など)を求める必要がある場合があるでしょうし、さらに、その対応が不調なら、自分を守るために退職してしまうのも止むなしとは思います。

 ただ、軽い「威嚇・攻撃」モードは、単細胞的・反射的な言動である場合も多く、これまたタイミングを逃さずポジティブに返答(「声をかけていただいたおかげで、ちょっと喝が入りました、ありがとうございます」とか)すると、一気に評価が逆転することもあるように思います。

4.馴染み、協調することは大切だが、過剰に合わせる必要はない

 障がい者を雇用する企業担当者とお話しさせていただくと、企業側は、働く当事者に対し「職場に馴染み、同僚と協調して働いてほしい」と強く考えていることが分かります。就職し、働き続けようと考える当事者の方は、このことを理解し、ふさわしい行動をとることを意識するとよいでしょう(挨拶や報・連・相、ポジティブな声かけなど)。

 ただし、職場の都合や同僚に過剰に合わせる(過剰適応、という)ことばかりに心を砕いていると、早晩、心身への負担が増し、仕事や生活へのマイナスの影響が出てくることが危惧されます。支援者の方と相談しながら、「ちょうどよい」振る舞いを調節するとよいと思います。

5.恩恵が職場全体に及ぶとよい

 精神障がい当事者の雇用が進むことで、当事者へのメリットが拡大するのは当然として、同時にその恩恵が職場全体(「同僚」と呼ばれる方々)にも及ぶとよいな、と日ごろから考えています。

 私たち支援者は、当事者を支援するのはもちろん、「同僚」と呼ばれる方々をしっかり念頭に置いて、支援を行っていく必要があるでしょう。具体的にどうすればいいのか、は…まだちょっと漠然としているので、来年の宿題とさせてください(独り言)。

(おわり)

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