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【本のご紹介】 増井武士 「精神療法でわたしは変わった」

増井武士 「精神療法でわたしは変わった 苦しみを話さずに心が軽くなった」 (木立の文庫 2022年)

 心に苦しみを抱える仮想事例の女性が、精神療法を通して自分を取り戻していく。その過程を、女性自身が振り返っていきます。そしてその精神療法は、「言葉にしたくない方は、言葉にしなくてよい。むしろ言葉にしない方が治療的な面接になる」というのです。

 著者の増井氏は、九州を中心に長年ご活躍されたベテラン。決して“怪しい”セラピストではありません(念のため)。

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 私が精神科の臨床に携わり始めたころ。精神病の患者様に真正面から切り込んでいくことしかできなかった未熟な私は、スーパーバイザーの先生に「間、遊び、余裕を作りなさい」と指摘されていました。頭でっかちで何かを“体得する”ことが苦手な私は、手掛かりを文献に求めました。その時に出会ったのが、増井氏の「治療関係における『間』の活用」(文献参照)でした。ずいぶんと助けていただきました。

 そして時は流れ、私が「街の心理士」として独り立ちした今、70歳代後半に差し掛かり“人生のカウントダウン”を意識した増井氏は、後進へのメッセージを残したいとの思いを強くされ、本書をものされたとのことです。

 一般的に精神療法(心理療法)は、ことばを介して行うものです。しかし、ことばは薬にもなれば、刃物にもなります。使い方を誤れば、相手を縛り不自由にもさせます。増井氏の「言葉にしない治療」とは、イメージとちょっとしたアクションを活用しながら、こころの傷にそっと“手当て”をしながら回復を待つものです。実に理にかなっています。

 最後に、これから私のクライエントになるかもしれない皆様に。今の私は、かつてのように、やみくもに切り込み言葉の刃物を振り回すような真似はしません。念のため。

文献
増井武士 1994 治療関係における「間」の活用-患者の体験に視座を据えた治療論 星和書店

(おわり)

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