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柔軟な支援・ケアが、精神障がい当事者の就労を後押しする

柔軟な支援・ケアが、精神障がい当事者の就労を後押しする
(「精神障がい当事者の就労支援あれこれ」シリーズ#48)

 精神障がい当事者の方々の職場定着・就労継続を可能にする(促進する)条件について考えています。これまでは、当事者の方々の側の事情(当事者の方々の工夫と努力で対処できるかもしれないもの)についてお話してきました。

 これから2回にわたり、支援者側・社会の側の事情について考えてみます。今回は、支援は柔軟にしようよ、というお話。

 病気・障がいと付き合いつつ働き始める(働き続ける)皆様への、エールのつもりでまとめています。どうぞご覧ください。

1.精神障がいは、個人差が大きい

 これまでに何度か触れましたが、精神障がいの大変さの特徴には「個人差が大きいこと」があげられます。

 そもそも「障がい」全般には、単に障がいが重い・軽いといった程度の差を超えた、個人差があるものです。

 例えば、体に麻痺があって歩行がままならず、自宅に閉居がちになっているケースを想定してみます。麻痺の程度により身体がどれほど動かせるかには、個人差があります。麻痺の部位によって、歩行能力にも個人差があるでしょう。自宅に閉居していることによる就業環境への影響も、在宅ワークの方とそうでない方とでは差があるのでしょう。

 そこに、環境要因(坂の多い街で暮らしていれば、外出のしんどさは増す)と個人要因(外交的で好奇心旺盛な方は、それでも出歩こうとするかも知れない)が加わるので、障がいの個人差はより大きくなります。

 精神障がいの場合も同様、もしくは個人差はより大きくなります。同じ統合失調症でも、陽性症状優位で活発に見える方もいれば、陰性症状メインで活気が出ない方もいらっしゃいます。精神疾患・障がいに理解のある環境であれば、生活のしづらさは大きく軽減されることでしょう。

2.精神障がいでは、調子の波がある

 これまた何度か述べていることですが、精神障がいでは個人差が大きいだけでなく、「調子に波がある」ことも留意するべきポイントとなります。これは、精神障がいの場合、疾病と障がいが併存することによるものといっていいでしょう。

 就労においても、調子のいい時のパフォーマンスを常に期待できるわけではないので、安定性を求めるのであれば、調子の波の“下の方”に合わせた準備・対応をする必要があるでしょう。

3.個人差と「調子の波」に合わせた柔軟な対応が大切

 ですから、精神障がい当事者の支援では、個人差や「調子の波」(個々人のニーズ)に合わせた柔軟な支援がとても大切になります。

 医療でも福祉でも、制度上ある程度固定した取り扱いがなされるのは仕方がないこと(公平を考慮すればそうであるべき、という側面もあります)です。せめて、そこに携わる「ヒト」が、少しでも柔軟に振舞うことが大切でしょう。

4.本来、ケアはニーズに合わせて提供されるもの

 ちょっと脱線しますが、本来、支援やケアはニーズに合わせて提供されるべきものです。

 新型コロナウイルス感染症の蔓延と、社会生活への甚大な影響から、コミュニティメンバーへの一律給付(令和2年の「特別定額給付金」のようなもの)を求める声があがっています。一律の給付は、個別のニーズを把握する時間も惜しい緊急事態に例外的に行われるものです。

 資源の配分は「公平」でなければならない、という考えは正しいのですが、同時に「公正」である必要があります。アベノマスクの一律配布は、「公平」であっても「公正」ではなく(要らない=ニーズに合わない)、大切な資源(予算)の無駄遣いになってしまったと言えます。高齢者に紙おむつを一律配布することは、排泄が自立している方にとっては無駄なことです。ニーズの把握と、ニーズにフィットした支援やケアを工夫することが大切なのです。

5.精神障がい当事者の就労では、就業時間の柔軟な対応が大切

 個人差と「調子の波」を考慮すると、特に就業時間の柔軟な対応が必要になる(それができれば、精神障がい当事者が“戦力となる”場面は、格段に増える)といえるでしょう。

 労務の内容は、現場での裁量でいくらでも調整できるものですが、就業時間の取り扱いは、就業規則の変更など大きな“手直し”が必要な場合があり、難しいものだと思います。

 そもそも、障害者雇用促進法において、障害者雇用のカウントの(労働時間の)最小単位が20時間となっている訳ですが、(個人差や調子の波を踏まえた)短時間労働の可能性を考えると、この枠は何とかならないものでしょうか(例えば、10時間労働で1/4カウントとか)。

 労働時間の柔軟な調整について、個々の現場でできることとしては、休憩のための短時間の離席を保証するなどが考えられます(かつては、喫煙する健常の社員さんが普通にやっていたこと)。

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 今日、がんの治療や家族の介護と就業との両立支援のあり方が試行錯誤されています。精神障がい当事者の就労でも、働きやすくするための工夫をいろいろ試してみるとよいのではないでしょうか。その試行錯誤が、ひいては全ての労働者の労働環境のちょっとした改善につながるものと信じます。

(おわり)

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