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本の世界で、私は恋をした。


恋愛の本といって私が一番最初に思い出すのは、村上春樹さんの「ノルウェーの森」。

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出産、育児を経て、本棚に並んだ本はどんどん減っていった。その中で生き残ったわずかの村上春樹たち。

文庫ではなく、Kindleでもなく、ハードカバー一択。赤と緑の装丁が、本棚の前を通るたびにちらちらと目の端に映った。哀しく美しいノルウェイの森の世界がふと頭をよぎる。

*タイトルについて‥.ちなみに「ノルウェイの森」はノルウェーという国の森という意味ではないとのこと。作中に何度か出てくるビートルズの曲名に由来。作者本人いわく「Knowing she wood」(彼女がすると知っている)という意味があるそうです。

好きな人にすすめられて

今から20年ほど前、私は大学生でした。
今のようなSNSなんてなくて、チャットツールでオンラインの友達と毎晩会話をしてました。

当時流行っていたのは、インスタントメッセンジャー「ICQ」。アッオー!とちょっとまぬけな声がメッセージの着信を知らせてくれます。

私には友達がいませんでした。
恥ずかしくて人と話すのが苦手でした。
人を前に何を話していいのかが思い浮かばず、
浮かんでも口から外に出てこないのです。

でも、オンラインには友達がたくさんいます。
その中で一番仲の良かったTくんにおすすめされたのが、村上春樹でした。


会ったこともない。
声を聞いたこともない。
毎晩チャットで盛り上がる同い年の男の子。
たわいない話が楽しい。いつまでも話していたい。おやすみの一言がさびしい。

なんて、ちょろい私。
あっという間に恋に落ちた

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彼がすすめてくれる本は全部読んだし、慣れない洋楽も聞いた。普段なら手に取ることもないサイコホラーの映画も。彼の見ている世界を知りたかった。


「なんか僕、女の子といるとキスしたくなるんだよね」
ICQで彼がいった。
「どうして?」
「なんでか無性に寂しくなるんだよ」
「ふーん。別にいいんじゃない?」

なんて。
好かれたくて平静を装う私。いいよ、いいよ。そんなの人それぞれだよ。それでもし、私が隣にいたら…。

付き合ってもないのに、したくなったらキスするとか。チャラくて、調子が良くて。

そんな彼は、まるでノルウェイの森の主人公みたいだった。普段普通にしゃべるし、女の子ともよく遊ぶ。けど実は陰がある。寂しくなると死にたくなる。そんな彼も知ってた。たぶん普段は外に出さない彼。そういうとこ、ギューって抱きしめたくなるんだ。

主人公の僕も、女の子にふらふらしてるけどどこか陰がある。親友の恋人、直子が好き。でも彼女の心は永遠に親友のもの。なぜなら親友は自殺しまって、もうこの世にいないから。僕は、好意を向けてくれる緑をだんだん好きになっていく。


私は緑になりたかった。
君と世界を共有したかったんだ。

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誰かを好きって気持ちは、あったかくて心満たされる。だけど、それが相手に届かないとわかると、悲しくて、寂しくて。心にぽっかりと穴が空いてしまう。

穴は、何かでふさがないといけない

新たな恋でもいい。本でもいい。
好きなものを食べて、好きな映画を観る。どんどん広がる穴は、やがて自分自身さえ蝕んでいくだろう。

私は村上春樹の本を貪るように読み漁った。

「風の歌を聴け」も「スプートニクの恋人」も「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」も「1Q84」も、種類を問わず全部読んだ。私の青春は村上春樹ワールドで埋め尽くされていた。

本と、恋と、旅と。

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私はたいてい家にいた。
一人が好きだった。

苦しくてせつない本気のも、
ワクワクするような不思議な冒険も、
暗い闇に落ちてしまうようなの旋律も、
いつも本の中にあった

そしてそれはそのまま私の出来事のように、頭の中で擬似体験した。本の世界では思うように生き、たくさんの恋を経験した


だけど、現実はそう甘くない。気持ちを表す文章が彼の隣に書いてある、なんてことも起こらない。

私はリアルな人間の気持ちを読み取ることが壊滅的に下手だった。というわけで、私がTくんと結ばれることはなかった。

「キスしたくならなくてよかった」
一緒に飲んで、帰りの電車を待つホーム。ベンチで隣に座った彼がこう言った。
私は「そうなんだ」としか言えなかった。

それは、彼女にはなりえない、ということ。
仕方ない。当時の私は会話というものがまるでできなかった。聞かれたら答える、それだけ。

私たちの間にはたくさんの沈黙が流れた。好かれる努力もしてない私を、どうして好きになってもらえるというのか。

本の世界を飛び出して

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社会人になると、あまり本を読まなくなった。
私はもう、本の世界で生きていなかった。

家を出て上京し、一人暮らしを始めた。小さい会社に勤めて朝から晩まで働く。

日常の生活に、物語の世界のルールなどまったく通じない。私はとにかく溺れないように必死で泳いだ。現実の中を、うまく向こう岸までたどり着こうと溺れながらもがき続けた。

そして、再び文字に出会う。


いまは無性に活字が恋しい。

文字に触れたい。

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広い書店の中をぐるぐる巡る。
どこをどう見ていいのかわからない。
本に伸ばす手もつい震えてしまう。
ドキドキして。ためらって。
触れたい。触れられない。

そうだ、この気持ちはまるで恋

次に出会えたら、ちゃんと手に取って、中を開いて。最初のページの一行から丁寧に読もう。新書のにおいをかいで、決して落とさないように、そっと両手で包むように。

大丈夫、きっとできる。私の人生、いつも隣には本がいた。また新しい出会いからはじめていこう。


......

こちらの優しくてほっこり心温まるエッセイで人気のともきちさんの『恋愛×読書コンテスト』#note大学恋愛読書コンテスト。note大学生じゃなくてもOK、ということで、、、こっそり参加させて頂きます。( ´ノω`)楽しい企画、ありがとうございます。

見たときから、このテーマ書きたいなぁと思って少しずつしたためてたのですが、どうしてもうまくまとめきれない...!うまく感情を表現できない。残念だけど、これが今の私。初心者らしく堂々と、楽しく参加させて頂きます‎•'-'•)

yuriさんの記事ものせさせて頂きます。
企画もの見つけたらなるべく参加していこうと思ってます。
よろしくお願いします( 'ᴗ' )و

読んでいただきありがとうございました(* ˙˘˙)♡


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