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【#曲からストーリー】夏の亡霊


お気に入りのヨルシカ、夏歌より。


痛いほどの日差しを浴びながら、坂道を登る。
そこには学校帰りにいつも立ち寄っていたお店があった、はずだった。
あれから10年が経ち、今はもうお店ではなくなってしまっている。僕たちはそこにあるバス停のベンチに腰を下ろして、氷菓を頬張りながら嘘みたいに形の良い雲がそびえる夏空を見上げ、どうでもいい話をしては笑い合っていた。

その店には毎年夏祭りのポスターが貼ってあって、それを見つけるたびにいつ行こうか算段をつける。中学になって、高校になって、それでも僕らははっきりとした言葉なんて一つもいわなくたって、二人で行くのが当たり前だった。

夜店に照らされた汗ばむ君の笑顔、真剣に射的をする後ろ姿、下駄の音だけが虚しく響く帰り道。僕はそれを今でも一つ一つ手に取るように覚えている。ついに掴むことができなかった、あの雲。ソフトクリームのような雲を掴もうと笑い合ってたあの頃に戻れたら、どんなにいいだろう。

帰省するたびに僕はこのベンチに座って、あの雲を探すんだ。お店も氷菓ももうないけれど、木陰の下でぬるい夏風を待っていると、今にも坂道の下から君の駆ける音が聞こえてきそうで。ペットボトルから滴る水滴が次々落下しては消えていく束の間、目を閉じると思い出の中の君が坂道を駆けて汗を拭う。
空になったペットボトルを空を透かし、白い雲を閉じ込める。僕は持ってきた花束を手にして再び歩き出した。墓地は今日も暑そうだな。
亡霊なのは、僕の方。僕はあの日から君が色褪せなくて、いまだ前に歩き出せずにいるんだ。

ペットボトルが落ちてカラカラと転がっていく。僕はゆっくりと拾い上げると、水気を切ってバッグに仕舞った。





🔻以前こちらの企画に参加した記事の再掲です。



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