UNDERTALEの性別不明の主人公の三人称はHeでもSheでもなくTheyという話

UNDERTALEというゲームが好きです。日本の古き良きゲームを彷彿とさせるとともに斬新なシナリオです。オリジナルは英語で開発され、各国語訳もあります。僕は日本語版でプレイしましたが、もともと日本語で制作されたんだと勘違いするくらいの良翻訳です。

そいでですね、UNDERTALEの主人公の性別はストーリー中に明かされないんですよね。おそらく意図的に言及してない。

ロールプレイングというくらいだから、ゲームでは特に、プレイヤーが自分を主人公に重ねるでしょう。このとき主人公の性別がどうとでもとれる方が、あるいは性別のことに思い至らない方が、いろんなプレイヤーが自身を重ね合わせやすいというのは自然なことだと思います。

でも、そういうの聞くとストーリー中の三人称どうすんの?って思っちゃうんですよね。he とか she とか書いたら性別言ってるようなものだからね。結論を先に述べるとUNDERTALEでは they だそうです。

そもそも英語の性別不明のときの扱いって、面白いテーマだからちょっと調べてみました。

英語には性別がわからないときの丁度いい代名詞がない

そんな事情とは別に、言語というのは不自由なもので、英語には性別がわからないときのちょうどいい代名詞がないのです。たとえば・・・

オタクの友達にアンダーテイルはどんなゲームか聞いたよ
それで、[そいつ] はなんて言ってた?
I asked my otaku friend what kind of game Undertale is.
So what did ____ say?

英語だと「そいつ」に相当する ____に何を入れるのかという話。日本語なら名詞の省略が常なので「そいつ」という必要もないけど、英語は主語の省略が普通はできないので he か she になるけど性別がわからない場合はどうするのかという話です。

いくつか解決策があるので見ていきます。

1. he

So what did he say?

性別不明は男性代名詞を使うという伝統的な方法があります。

昨今では、性差のない表現が好まれるので、フォーマルな文章、特に書き言葉では避けられる傾向にあります。ただ実際の会話では「そいつ」が女性とわかっていれば相手が she って直してくれるのを見越して話せばいいという実用性もあるように思えます。

2. he or she・ s/he

So what did he or she say?

上記の性差のない表現を汲んだのと、伝えうる情報を明示した形がこちらになります。he or she のかわりに s/he と書くこともできます。

これはフォーマルな言い回しだそうです。書き言葉向きですよね。全部説明しちゃってるからね。反面、これを繰り返すのはダルいというのもよく分かります。

一番の問題は、男と女以外の性別をカバーできてない表現、だというのは現代社会ではコンセンサスが取れつつあることだと思います。

3. it ・ one

So what did it say?

この例だと不適切かなあ。

一応、性差のない代名詞も英語にはあります。it や one です。でも、これも問題があって、同時に人間性も失ってしまうんです。つまり、性別に言及しない代わりに人間じゃないかもという含みをもたせてるみたいにも聞こえちゃうので、オタクを差別してる感がでますね。少なくともぶっきらぼうには聞こえる。

そいつは 窓を割って入ってきた
It came in through the window.

「そいつは」と訳すケースで it を使えるのは人間なのか動物なのかそれとも人智を超えたなにかなのかわからんとき、あるいは伏せるときですね。

4. 人名

I asked my otaku friend Sacha what kind of game Undertale is.
So what did Sacha say?

名前だけわかっていて性別は知らないというパターン。

人名がわかっていて性別がわかっていないケースは人名も使えます。"代"名詞というくらいだから、代わる必要ないなら話は簡単です。

とはいえ、特殊なケースですね。名前から性別は類推できることは多いので、ちょっと珍しい名前の場合とかですかね。例文の Sacha (サシャ)とか。男女両方ある名前なんだって。へぇ〜。

5. 属性や職業名

I asked my programmer friend what kind of game Undertale is.
So what did your friend say?
So what did the programmer say?

名前はわからないけど「属性や職業名」はわかるときは、それを使って迂回策で逃げる。これは現実的な解決策です。

属性といってるのは your friend 。職業なら the programmer ですね。
「その友達はなんていってるの?」「そのプログラマーはなんていってるの?」とするのは明確ですよね。

ただ、これも万能じゃなくて、さらに文章が続くときなんかは、何度も your friend や the programmer がでてきてダルいです。 ていうか、もともと繰り返しががダルいから代名詞使いたいはずではなかったのか!

6. で、 they なんだって

So what did they say?

現状の代名詞や迂回策をいくつか見てきて解ったのは、欲しいのは「性別を示さない人間を表す代名詞」ってことですよね。

そこで they ですよ。 they は男女どっちも使えるので、これを単数形として使います。昨今では「ジェンダーの多様性」を重視して they を使うことが多くなっていますが、それなりに古くから、文法上は they を単数として使うこともあったようです。

各国語版どうなってるんだろうね

英語版以外どうなってるんだろう。
男性形・女性形のある代名詞を持つ言語は多いはずだから。

たとえば、スペイン語・イタリア語・ポルトガル語あたりは、男性形女性形あるけど、名詞の省略が普通(たしかうろ覚え)なので、この問題は意外とないかもしれない。ドイツ語とか北欧系の言語も同じ問題抱えてそうだなあと、ふんわり思ってます。

気が向いたら調べます。

追記

今回の例文は機械翻訳の DeepL に頼って作ってるけど、日本語から翻訳させたとき性別不明の名詞を受けると代名詞に they を使ってくるね〜。憶測だけど、機械翻訳にとっては they はありがたいはずだよね。ある名詞を受けて、代名詞の性・数が決まるのに日々新しい名詞は生まれてくるし。

なんだろうな「ジェンダーの多様化」や「機械翻訳」みたいな時流から、言語の側も代わっていく感じ。言語が世界を切り取るとともに、世界が言語を形作るとも言えそう。


追記の追記!

スペイン語版についても書きました。






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