大物アーティスト『TUBE』は、なぜ売れたのか?-広報とリード獲得をmixした戦略事例-
夏と言えば?
もうすぐ夏ですね。
どうも、株式会社リプカの松尾で~す!
さて、
前回投稿したnoteもなかなか評判が良くて嬉しい限りです。
ちょっと調子にのっております。(笑)
今回も、何の話をしようかな・・・。
考えているうちに、もうすぐ夏だなぁ・・・。なんて思っているうちに、
なぜか、急にある大物ミュージシャンを思い出してしまったのは、今年、四十路を迎える人間の悲しい性でしょうか?
皆様は、夏のミュージシャンや歌手と言えば、誰を思い出すでしょうか?
やはり私の年代は、TUBEを思い出してしまうわけです。
ということで、またしても、ふる―い過去事例ですが、
以前投稿したのは、日本海海戦という明治のころの話でしたので、今回は比較的最近の話なので、いろいろと応用が利く可能性があるかな?
と考えております。
TUBEは最近、あまりメディア露出をしていないので、20代の方はご存じないのではないのかと、不安になってしまいます。しかし、40代はもちろん、30代後半の方は、夏と聞いて頭に浮かぶミュージシャンと言えば、『TUBE』をおいて、他にないでしょう。
この『TUBE』という音楽グループは、デビューした曲が、ビールシェアNo.1企業のキリンビールCMのタイアップ曲に選ばれ、デビューシングルCDが売り上げ10万枚を超えるヒットを記録しました。
しかし、なぜ『TUBE』は、いきなりキリンビールのタイアップを獲得できたのでしょうか?
そして、10万枚ものヒット曲を生み出すことが出来たのでしょうか?
そこには奇抜と言ってもよい、広報戦略とリード獲得戦略があったのです。
まずは、TUBEが所属していたレコード会社『ビーイング株式会社(通称:BEing Records)』について簡単にご説明しましょう。
ビーイング株式会社とは(BEing)
ビーイングという会社名は聞いたことが無い、という方でも『B’z』というアーティストはご存じではないでしょうか?
そう、CD売り上げ総数、約5000万枚ともいわれる超大物アーティスト『B’z』を手掛けた会社がビーイング株式会社です。
他にも、大黒摩季、ZARD、などが有名でしょうか?(敬称略で、すいません。)
創業者は、長戸大幸(ながとだいこう)氏。
元々は、音楽プロデューサーであった長戸氏は、
「理想的なレコード会社(音楽プロモーション会社、音楽レーベル)を作ろう!!」
と考えて、ビーイング株式会社を立ち上げました。
長戸大幸氏は、さまざまな企業との商談の場で、
「こういう雰囲気の曲がPR用で欲しいけど、見つからない。」
「こういった場面を演出する曲に、穴があいちゃって・・・。なんとかならないですか?」
といった企業側の要望に、
(もうほとんど、悩みやボヤキに近いと思いますが。)
「うちにはありますよ!!!」
と答えて、
ピッタリな楽曲を提供してあげる。という営業手法を取っていたそうです。
これ、裏事情を話すと、実際にはそんな曲をビーイングは、商談の段階で持ち合わせていなかったらしいのです・・・。
商談から帰ってきた長戸氏は、
「明日の昼までに、こういった雰囲気の曲が必要なんだよねぇ。」
と、スタッフの前で言っては、その曲を期日までに用意させていたそうです。
(言われたスタッフが、各アーティストや音楽プロデューサーに指示するという行為がつらかったでしょうね。と、私は想像しちゃいますが・・・。)
しかし、そういった営業手法で、
他のレコード会社が埋められないところを、ビーイング系アーティストで埋め合わせることで、徐々に提携先企業を拡大して、売り上げを拡大していったそうです。
TUBEの広報戦略
そんな中、歌唱力と楽曲制作に才能を見せる4人組アーティスト『TUBE』とビーイングは出会います。
高い才能をもつTUBEをなんとか売りたい!!
そこで考え出された作戦が、かなり奇抜というか、
そんな手があったか!!!
と、ついつい口に出してしまうような方法でした。
まずは、TUBEがデビューする前年の、1984年のことです。
① 三浦海岸の端っこから端っこまで、モデルの女性に歩かせる。
1984年の夏、海開きをした三浦海岸。
当時、三浦海岸は若者が集まる海岸として有名な海岸でした。
(いまでも若者はあつまりますが、ファミリー層や年配層も幅広く集まっている印象があります。)
そんな三浦海岸の海とは反対側の防波堤沿いの道を歩く、若い女性が居ました。
ウェットスーツに身を包む、スラっとしたスレンダーな美しい女性です。
そして、その女性はサーフボードを持っています。
サーフボードには、大きな文字でこう書かれていました。↓
もうお分かりかと思いますが、
ビーイングは雇ったモデル数人の女性に、交代交代で『TUBE』と書かれたサーフボードを持たせて、夏の間ずっと、三浦海岸の端から端まで歩かせたのです。
若い美しい女性は注目を集めます。そして、その女性を見た人に『TUBE』という文字だけを脳に刷り込ませたのです。
1984年にやったことは、たったこれだけです。
そして次の年の、1985年の夏、いよいよ本格的に『TUBE』のプロモーションが始まります。
② 三浦海岸に特設ステージを作って、夏の間毎日ライブを行った。
1985年の夏、三浦海岸に大規模な特設ライブステージが出来上がりました。
ステージの周りには『TUBE』と書かれた、のぼりが立っています。
もちろん書かれている文字フォントは、前年モデルに持たせたサーフボードにデザインされていたフォントと同じものです。
TUBEは、このステージで毎日ライブを行いました。
ちなみに、集客は日を追うごとに増えていき、開始1週間後にはステージ前は人であふれかえっていたそうです。
これだけ人が集まったのは、TUBEのステージングや楽曲の良さが理由なんじゃないの?
という意見もあると思いますが、もちろん、そこも集客に関係していたでしょうが、前年の『TUBE』というコトバのみを、三浦海岸に集まる人たちに印象付けていた、ということも作用していたことは否定はできません。
(なぜなのか? は、このあとお伝えします。)
・言葉のみを印象付けて、刷り込みを行う
・特設ステージでライブを毎日行う
・人が集まる
という一連の流れが出来上がりました。
ライブ会場が人であふれかえるようになってから、ビーイングはさまざまな企業に直接アプローチをかけます。
「湘南の海で、めちゃくちゃ人を集めている音楽グループが居るけど、御社のプロモーションで使いませんか?」
これに賛同したのが、キリンビールでした。
キリンビールは実際に現地を視察して、TUBEというアーティストの人気ぶりに驚愕。早速「キリンびん生」のCMソングにTUBEのデビュー曲“ベストセラー・サマー”を起用し、一気にTUBEの人気は全国区になっていきました。
『TUBE』=夏のアーティスト
というイメージは、限定的な広報戦略によってきっかけが作られ、またビールのCMに起用されたことで、より深まっていくのでした。
注目すべき広報戦略とリード獲得への利用
TUBEを売り出した戦略は、大きく3つのフェーズがあると考えられます。
①限定的広報戦略
②toCの人気を演出
③toBのリード獲得をする
というかたちです。
①限定的広報戦略
TUBEの広報戦略は、まず見込み顧客になり得るターゲットを明確に絞って、そのターゲットに向けて限定的に広報戦略を打ったというところが特徴的です。
TUBEがターゲットとしたのは、
・三浦海岸に集まる若者
です。
そして、まずはその若者たちに『TUBE』というコトバだけを脳に刷り込むためだけに、コストを投下しました。
この時のコストは、
・『TUBE』と書かれたサーフボードの制作費
・スタイルの良いモデルの人件費
のみです。
・三浦海岸に集まる若者
→夏が好き
→アクティブな層(今ふうに言うとパーリーピーポーですかね(笑))
→車に乗る人も多い(カーステで聴いてもらえる)
という定義づけのもと、この層に対して徹底して<認知拡大>を行うことに特化したわけです。
この手法を、あえて脳科学や生理学的に言うと、【暗黙的学習】と言います。
人の学習には3種類の学習があります。
・能動的学習
・受動的学習
・暗黙的学習
の3つです。
能動的学習とは、本人が意識をして対象となる概念を理解しようとする行為です。
受動的学習とは、本人が注意を払っていない状態で行われている学習です。なんとなく流れている音楽を、意識せず聴いている状態もこれになります。
暗黙的学習とは、脳は処理を行っているものの、本人はそのことを考えているわけではない状態で行われる学習です。
わかりやすい例が、『パブロフの犬』で有名な生理学者パブロフの実験です。
パブロフの実験は、犬に餌を与えるときに必ずベルを鳴らすようにした。というものです。しばらくしたら、ベルを鳴らすだけで犬はよだれを垂らすようになった。と、記録されています。
この有名な実験。これは暗黙的学習のわかりやすい事例ではないでしょうか?
ポイントは、受動的学習も暗黙的学習もスイッチが入ると、人は一気に能動的学習に切り替わる場合があるということです。
わかりやすい例で言うと、
なんとなく喫茶店でながれるBGMを聞いていたが、
「これって誰の曲だっけ?」
となって、スマホで調べだす。というような状態です。
これがまさに、スイッチが入って能動的学習に切り替わった状態です。
マーケティング戦略から言うと、
一見、しっかり意識して理解している状態の能動的学習を促すようにしていくことが、広報戦略として良さそうな気がしますが、能動的学習の状態だと実は人に伝わりづらいということもあります。
能動的学習ということは、脳がフル稼働しているので、その人の固定概念にとらわれたり、マイナスの思考も働いていることになります。
音楽で例えれば、
・こういう曲調のミュージシャンはカッコ悪い
・若者向けのミュージシャンは好きになれない
といった固定概念や顕在意識が働いていると、認知をされても悪いイメージがついてしまう可能性もあるのです。
TUBEを売り出すために行ったビーイングの広報戦略は、絶妙な暗黙的学習に沿った広報戦略でした。
・モデルに『TUBE』と書いたサーフボードを持たせて歩かせる
本人が意識しない注意を払わない潜在意識に印象付ける暗黙的学習が行われるように、そして知識や知覚に左右されずに記憶に残させるという方法だったわけです。
②toCの人気を演出
次の年は、特設ステージでライブを行いました。
暗黙的学習を促す広報戦略によって、人は集まりました。もちろん、しっかりとTUBEが実力があるミュージシャンでしたから、ライブを見た人たちは、能動的学習に変わっても、しっかりと集客が出来ていたわけです。
しかし、海岸の野外で行われるライブですから、集まる人たちが全員暗黙的学習によって、TUBEを認知していたか?は疑問です。
しかし、“人が集まっている”という状態を演出するというのが、ビーイングの狙いでした。
③toBのリード獲得をする
“人が集まっている”という状態を見せることで、無名のはずのTUBEは、湘南で圧倒的な人気があるミュージシャンに演出されます。
それを、既成事実として見せられたことでキリンビールの担当者はびっくりしたわけです。
後日談ですが、デビュー間もないTUBEは、当時の人気音楽番組の『夜のヒットスタジオ』に呼ばれることになります。
収録が行われる日、TUBEはライブを終えて海岸で遊んでいたそうです。そうしたら、ドタキャンをしたミュージシャンが居て、その穴を埋めるために急遽当日呼ばれ、東京に直行して私服のアロハシャツのまま出演したそうです。
TUBEは、運も引き寄せて、全国ネットのTV番組にも出演を果たします。
現代で応用するには?
1984年の当時は、インターネットが無い時代です。ですから、ターゲット顧客がリアルで集まる場所において、限定的に広報戦略を打つ必要がありました。
しかし、現代はインターネットがあります。
YouTube、Twitter、InstagramなどのSNSや、ポータルサイトや情報サイトがたくさんあります。
そんな中でつい、インターネット上の広報戦略というと、マス的に広くいろいろな人に認知拡大できる方法や手法に、意識が向きがちですが、インターネット上こそ限定的な広報戦略が打ちやすい場所と、言えるのではないでしょうか?
そして、その限定的な広報戦略をつかって、一部の人から圧倒的な認知を得ることにより、
「この層にむちゃくちゃ人気ありますから、御社も導入しませんか?」
「タイアップでプロモーションしませんか?」
というtoB向けのアプローチをとることで、リード獲得が容易にできると、私は考えてしまうわけです。
※ 参考記事 『ぴあ:元ビーイング名物プロデューサー中島正雄が語る「パクり」のクリエイティブ論』
※ こちらの記事のエピソードは、筆者が過去に、音楽仲間やその友人からヒアリングした内容を元に書いているため、本人の記憶違いがあったり、本人の見解を基に書いている項目もあります。
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