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三流カメラマン戦記 -二輪業界編②-

二輪での仕事に不安を感じ始めながら、細々と業界に留まっていた。
そんな折、ある企画を依頼された。

当時、新しく発売されたばかりのHONDAのゴールドウイングに乗って東京から神戸までツーリングをして記事にするという企画だった。
副編集長がバイクを運転し、私が後ろに跨がり撮影をする流れである。
その副編集長とは歳が離れていて、いわば昔ながらの体育会系だったので、
苦手意識が強かった。

しかし、どこの業界でもよくあることで電話で仕事を依頼される時に、
相手「何日空いてますか?」
私「空いてますよ」
相手「何々の企画で〜」
と後出しで企画の話があがるので、非常に断りづらい状況になる。

なので、私が動けなくて別のカメラマンにお願いする際は
「何日にこういう仕事があるんですが、空いてますか?」というようにしている。

そんな感じで断れない流れになったので、仕事を受けることになった。

前日に編集部から呼び出され、編集部員が「明日着て行くライダースジャケットを持っていないのなら用意しますよ」ということで何着か見繕ってくれ、じゃあ明日はお願いしますという流れになった。

当日朝、集合場所である編集部に行き、今回同行する編集長と会った。
前日に用意してくれたジャケットを着て、出発する時に副編集長が、「これは違うな」と私が着たジャケットを見て言った。

それはハーレーダビッドソンと記載された厚手の革ジャンだった。
確かにホンダのバイクにハーレーのジャケットは違うかもしれないけど、私が写真に映るわけでもないのにな…と思いつつ、まぁいいかと思った。
代わりに用意されたのが、どこかのブランドのメッシュジャケットだった。
この時も別になんでもいいやと思ってたのでそれを着ることにした。

そして、ゴールドウイングのタンデムシートに跨り、長い旅が始まった。

季節は4月。
天気も良く、ツーリングをするには最適な日だった。

が、しばらくすると段々と寒気を感じるようになった。
そう、メッシュジャケットが無駄に風を通すのだ。

バイクに乗った経験も、メッシュジャケットを着た経験もある。
しかし、バイクの後ろに跨るということは自分史上なかったので、後ろはこんなに風の影響を受けるのか〜と感心した。いやドン引きした。

寒気は次第に悪化してきて、身体の震えが止まらなくなってきた。
ここは高速道路上。
当然ユニクロなど気の利いた店はなく、ひたすら寒気に耐えるしかない。
副編集長も私の異変に気づき「一回降りて、どこかで服買いましょうか?」と提案してくれたのだが、「ダイジョウブッス…」と謎の遠慮をしてしまったので、帰るまで耐える結果となった。

高速道路を走っていると、副編集長が「後ろから私が高速道路を運転してる様子を風景が入る感じで撮影してください。」と言った。

当時使っていたカメラがCanon 5D Mark lll で、さすがに標準レンズはキツイな〜・・・と思い、17mmの単焦点広角レンズを使うことにした。
しかし、それでも引きが足らない。
副編集長の体とヘルメットが目立って映り込み、ブサイクな写真になった。
そう、当然のことだが副編集長と私との距離が近すぎるのだ。
理想的な写真を撮るには、お互い前後に移動し空間を作るか(無理だが)、私が立って撮影するしかなかった。

心の中で葛藤していると、バイクはSAに停まった。
副編集長が「どうですか?」と、写真のチェックを求めてきた。
私が撮った写真を見せると、ちょっと怒った顔で「立って撮影しようとか考えれないのですか?」と言った。

心底この業界が嫌になった。

考えはしたよ!でも危ないだろ!突風とかギャップとか踏んでバランス崩したらアウトだろ!
倫理的にも良くないし、仮に私が落下したら責任を持ってくれるのだろうか?

と言いたかったが言えなかった。
「はぁ…分かりました」と渋々了承し、撮影することになった。

もう少し言い方を考えてくれれば、もう少し仕事がやりやすくなるんだけどな〜…ということが写真業界に限らずよくある話である。

今回の件でも、「危険なことで申し訳ないんですが、立って撮影ってできますか?」と言ってくれれば、困惑しながらも「じゃあ何とか努力してみます」となっただろう。
言い方ひとつで人の動きは良い方向にも悪い方向にも変わるのだ。

私も自分の趣味の撮影や、面白い仕事の撮影はリスク覚悟で多少の危険を負って臨むのだが、それはどちらも自主的にであって、もしトラブルがあった際は自己責任で納得できるからだ。
しかし、今回の場合は自己責任として納得はできないだろう。

そう言えば以前、カメラマン二人体制で取材に行った際にバイクの走行シーンを正面から撮ってほしいと編集長から依頼された。
要は「ひっぱり」と言って、バックドアを開けた状態の車を走らせて、その後ろを被写体であるバイクが追いかけるように追走し、カメラマンはフラットにした後部座席に腹ばいになって撮影する。
当時はやる気しかなかったので、二つ返事で引き受けたのだが、もう一人の先輩カメラマンが「慣れない人にそういうのやらせると危ないですよ」と編集長に言って、代わりに引き受けてくれたことを思い出す。

バイク業界のカメラマン達は決して高くはないギャランティでリスクを冒すような撮影を当たり前にしているんだ…とげんなりした。

寒気やらいざこざやら色々大変な撮影だった。
疲労は蓄積し、頭の中もモヤモヤしっぱなしだった。
帰るころには丑三つ時近くだった気がする。
副編集長が自宅まで送ってくれ、手を差し出してきた。
私は手を握りかえした。

その副編集長はこの4年くらい後に会社を辞め、自分の夢を追った。
今思えばだが、楽しい取材だった。










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