なんの波乱もない家庭2

「楽しかった〜！！！」

カナトが上機嫌でお風呂から出てきた。頬はほてって薔薇色だ。目はくりっとしていて夫に似ている。顔は2人の遺伝子が入っているので、もちろん丸い。

「しっかり髪乾かすんやで」

「わかってるよ〜ママー！ドライヤーしてー！！！」

我が家のドライヤーはRefaだ。結婚1年目の誕生日プレゼントに夫におねだりしたものだ。

40000円近くするのでだいぶ渋られたが、交際中に一切プレゼントをもらわなかったこと（物欲がなかったので我慢していたわけではない）や、妊娠のお祝いが欲しい、と説得に説得を重ねてようやく買ってもらった。

実家の母もおなじタイミングで父からRefaを買ってもらったらしく、LINEでこんなやり取りをした。

「やっと欲しいものが手に入る時期に来たね」

「ほんと、今の幸せを噛み締めんとね。あと10年くらいは好調期かな？」

「そやなあ、アプラス占星術的には次の土曜日が牡牛座満月やから気をつけんならんらしいよ。あんたも動画観ときなさい。」

リンクが送られてきた。

カナトの髪を乾かしてから、ゆっくり観よう。私は母にスタンプだけ送ってLINEを閉じた。

「カナト〜髪乾かすからこっちおいでー」

「はーい！」

カナトを膝に乗せ、短くて太い髪を乾かしていく。この剛毛は私似だ。カナトは産まれたときから黒黒とした髪がびっしり生えていて、生命力の強さを感じさせた。

Refaは風量がかなりあるので、3分位で乾いてしまった。あっけない。

「はい、終わったよ。お布団入ろうか？」

「やだ！！！まだ遊ぶ！！！」

アドレナリンマックスのカナトはステゴザウルスの人形を振り回して、家の中を走り回っている。

やれやれ、あの手を使うか。

「カナト〜お布団に一緒に入ってまたお空飛ぶ夢見る？」

カナトがピタッと立ち止まり、振り返った。

「いいの！？」

私に似て、カナトも幽体離脱ができる。あんまりその力を使っちゃいけないよ、と話してあるので「空飛ぶ夢」は我が家ではやんわりタブーとなっている。

だが今夜は特別だ。

布団を敷いていると、洗面台で体型をチェックしていた夫がやってきてこう言った。

「見て？ちょっと痩せたんやけど😄」

夫の腹回りを見る。確かに少しシュッとした。

「ほんとや。やっぱり小麦粉から米粉に変えてよかったやろ？」

「せやな。咲のおかげやで。ありがとうな。」

結婚当初は夫の好みに合わせて所謂"味が濃くて美味しいもの"を作って食べさせていたが、カナトを妊娠してからは食べ物に気をつけるようになった。

（お母さんが健康オタクでよかった）

心の中で実家の母に感謝した。

つづく