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前髪をチョキチョキするといつも思い出す

髪の毛へのこだわりが、もう少しあればな〜と思う。ショートカットを保つために、1ヶ月に一度美容院へ行く友人や、パーソナルカラーの髪色に染めている従姉妹を見ると尚更だ。

最後に美容院に行ったのはいつだろうと考えると、去年の5月。もう8ヶ月も前の話になる。

女の子としてこの美容院頻度はいかがなものか。そう自分に問いかけてみても、まあ美容院の頻度なんて人それぞれだよね、と話は発展しない。

8ヶ月間まるで髪の毛をいじっていないかというとそれは嘘で、前髪だけは自分でチョキチョキと手を入れていた。

基本的におでこを出したくない私は、パッツンと呼ばれる前髪のポジションをキープするか、前髪を適当に巻くよう努めている。

しかし、髪の毛は自然と伸びていく生命体で、段々と前髪を横に流さざるを得なくなるのだ。

目に刺さる前髪を感じながら、そろそろ切るしかないかとハサミを取り出す。そうやって何度も自分の前髪を整えてきた。

昨年の8月、暑さがピークに達する頃に友人の結婚式があった。髪の毛に疎い私は、自分でヘアセットなどできるはずもなく、迷わず美容院の予約を入れる。

その頃の髪事情はというと、5月にかけたパーマがいい感じに残っていた。前髪も自分で切ったばかりだったので、整っている。

美容師さんに「今日はどのようなセットにしますか?」と問われ、電車で必死に探したモデル写真を見せようとすると「パーマがいい感じだから、セットしなくてもこのまま結婚式行けそうですね」とお褒めの言葉をいただいた。

ニヤニヤしながらも、自分じゃ絶対に出来ないヘアセット写真を見せる。寝て起きたままだと知っているこの髪型で、結婚式に出られるほどズボラではない。

手際よく髪の毛を巻き、まとめ上げ、大量のピンを刺す美容師さん。ベテラン感が漂っており、きっと何百人もの女の子を可愛くしてきたんだろうな、と鏡越しに見つめてしまった。

みるみるパーティーに馴染める女性へと変身していく中、前髪どうされますか?とベテラン美容師に問われた。

おでこが隠れるように巻いてもらえると…と伝え、分け目の確認が始まったところで「あれ、なんだか変な切り方されちゃってますね…」と不思議そうに小声で呟いた。

あ、変な切り方されちゃったんじゃなくて、自分でしちゃったんです。決して、パーマをかけてくれた美容師さんの腕が悪くて、私の前髪が変になった訳ではないんですよ。でも、私としては結構整っていると思っていたんですけどね、ははは。

なんて言えるはずもなく、真顔かつ無言で前髪が巻かれていくのを待つ。ごめん、行きつけの美容師さん、と罪悪感を抱きながら心の中で呟いた。

気がつけば、スプレーをブシューと頭全体に振りかけている。そろそろヘアセットも終わりそうだ。因みに、前髪はいい感じに見える。変に切られててもいい感じにしてくれて、感謝しかない。

後ろで鏡を構えたベテラン美容師さんにお礼を伝え、結婚式会場へと向かった。パーティー姿の自分に満足したので、その日の前髪の出来事などすぐに忘れていく。

ただ、毎回思い出すのだ。前髪が目に刺さり出して、自分で切らなきゃなぁとハサミを用意する時。変な切り方されちゃったねって言われたことを。

あの美容師さんは別に悪くないのだけれども、そういえば…と後になってじわじわと心に浸透してくるのだ。

そして、今日はじわじわの日。また自分の前髪が変に切られてしまった。


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