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ひとつの夢に包まれて

※夢で見た光景を物語にしました。
以下は創作文です。

僕には「レン」という弟がいました。

彼は幼少期にドラッグをやりながらめちゃくちゃな生活をしていました。
レンはその頃の苦悩をネットで書き綴っていました。
その日記が話題になり、出版されました。
絵本にまでなりたくさんの音楽雑誌などにも取り上げられました。
芸能人やミュージシャンと写った写真が雑誌に載りました。
レンは有名人になったのです。
有名人になってもレンの苦悩は消えませんでした。
ますますドラッグにのめり込み幼少期のうちに亡くなりました。

僕はそんなレンの存在を彼が亡くなってから知らされました。
実は僕も青年期にドラッグにのめり込み生死の境を彷徨いました。
そしてレンと同じようにその苦悩をネットに書き綴っていました。
僕の日記は何の話題にもなりませんでした。
レンの存在を彼が生きているうちに知っていたら僕はレンに言葉をかけていたでしょう。
僕の言葉はレンには届かなかったかもしれません。
僕がドラッグでめちゃくちゃだった頃、誰も僕を救えなかったように。

僕と彼の違いはレンは有名人になって死んで、僕はうだつの上がらないまま生き延びた。
レンは僕ができなかったことを成し遂げました。
彼の人生はパラレルワールドでの僕のもうひとつの人生だったのかもしれません。

僕はレンのようになりたかったです。
母親はなぜレンが亡くなってから僕にその存在を知らせたのでしょうか。
成功して死んだレン。うだつの上がらない僕。
それが交わらないようにしたのかもしれません。
彼は彼の苦悩を、僕は僕の苦悩を生きました。
それが交差することはありませんでした。
でも確かにその二つの苦悩は、二つの人生は、この世界にあったのです。

僕は彼の物語を生きることはできませんでした。
彼も僕の物語を生きることはできませんでした。

レンの物語と僕の物語は同じ世界で起こったことだったのでしょうか。

僕は今もレンを探して彷徨っています。

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