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note連続小説『むかしむかしの宇宙人』第60話

前回までのあらすじ
時は昭和31年。家事に仕事に大忙しの水谷幸子は、宇宙人を自称する奇妙な青年・バシャリとひょんなことから同居するはめに。二人は空飛ぶ円盤の観測会に出かける。

→前回の話(第59話)

→第1話

「私の能力は、テナガノリの直伝です。特に次元空間の密接点を探索する能力は日本の伝統芸能のようなもので、師匠から弟子に引き継ぐことにより、その特殊能力を後世に伝えていきます。

ですから必然的にテナガノリと私の宇宙における航行可能空間も似てくるのですよ。

だから私は、任務を果たしながらもテナガノリの情報を集めました。あのテナガノリが亡くなるとはどうしても想像できなかったのです。

圧倒的な知性とチョナゴリゴリを一瞬でへし折るほどの怪力の持ち主。まさにテナガノリは理想の宇宙飛行士でした」

一体、チョナゴリゴリが何なのか気になったけれど、口をはさむのは控えた。

「あらゆる星を訪れるたびにテナガノリに出会えないか、とさがし回りました。

ですが、いくら航行可能空間が似ているとはいえ、宇宙は果てしなく広い。テナガノリに遭遇できる可能性など、海に落ちた小石を発見するようなものです。

やはりテナガノリは亡くなったのだ、となかばあきらめました。ところが、グルトン星に到着したときのことです。

グルトン星は我々の星や地球と同じく、人型の星人が闊歩する星でした。グルトン星は宇宙人の対応にもなれた惑星です。

ですから安心して、グルトン星人に挨拶しました。すると、お腹に強烈な一撃をお見舞いされたのです」

「殴られたの?」

「ええ、実はグルトン星人の挨拶は相手の腹部を殴ることなのです。その威力が強ければ強いほど親しみのある印なのですよ。

私が挨拶した御仁は、かなり友好的な人物だったようです。その場でうずくまるほどの威力でしたから」

その激痛を思い起こしたのか、バシャリは顔をゆがめた。

「ですが、そのときです。『相変わらずだな、おまえは。新規の星に到着した直後は、もっと緊張感を持てと言っただろ』という心の声がしたのです。

私はぱっと顔を上げました。すると、そこにテナガノリがいたのですよ

バシャリは嬉しそうに語気を強めた。

「テナガノリさんは無事だったのね」

「はい、無事でした。怪我や病気になった様子もなく、いつもの元気なテナガノリでした。

私たちは再会を喜びました。二人ともたくさん泣きました。もう二度と会えない、と覚悟してましたから

バシャリは涙ぐんだ。その感激の大きさが伝わってきて、わたしもじんとした。

「二人で別れてからのことをたっぷり語り合いました。テナガノリが帰還できない理由は、やはり円盤の故障でした

「あなたと同じということ?」

「いえ、そうではありません。私はラングシャックを紛失しただけで、円盤は故障していません」

「じゃあ、あなたの円盤に乗せてあげればいいんじゃないかしら」

「それはできません」バシャリはすぐに否定した。「私たちの円盤は一人乗りなのです」

「一人乗り? ずいぶん不便なのね」

「前にも説明したように私たちは円盤を動かしたい、という想いを円盤の動力源にしています。

アナパシタリ星と同じ銀河内のような近距離ならば、多人数での航行も問題ないのですが、別の銀河、別の次元、さらには別の時空間への航行となれば、莫大なエネルギーを使用します。

ですから一人でないと無理なのです

「よくわからないわ。一人よりも大人数のほうが、そのエネルギーが増えるんじゃないかしら?」

「いえ、いえ、想いの動力とは、そんな単純な理屈ではありません。例えば、私と幸子が同時に『お腹が空いたから何か食べたい』と願ったとします。

ですが私はおはぎで、幸子は筑前煮かもしれません。

同じ想いでも人が違えば、内容は異なります。だから円盤を飛ばしたいという一見差異のなさそうな願望でさえ、人によって微妙な差があるのです。

大人数だとたしかに願望の総量は増加します。

ですが、各々の願望の誤差が、エネルギーの純度を落とすのですよ。いわば、混ぜ物のガソリンと同じ状態になるわけですね。

ですからそれを阻止するために、宇宙の果てを航行する宇宙飛行士用の円盤は一人乗りなのですよ」

「よくわかったわ」

理屈は一応理解できたので、とりあえず頷いた。バシャリが深刻そうに言った。

「ですが、私はどうしてもテナガノリを救出したかったのです

テナガノリは私の師匠です。感情の種類も非常に似ているため、エネルギーの純度もさほど落ちません。

時空間を超えるとはいえ、二人での円盤の航行も可能ではないか、と模索していました。ところがです。私がそれを提案すると、テナガノリはこう言いました。『俺は、ここに残る』と」

「どうしてかしら?」

「わかりません」

バシャリは、腕を組んだ。長年思い悩んだけれど、さっぱりわからない。そんな面もちだった。そして、ぽつりと言った。

「ただ、テナガノリはこう付け足しました。

『いいか、二人乗りが不可能だと言う訳じゃない。俺は、この星に残りたいんだ』

私は不思議でした。グルトン星はアナパシタリ星に比べれば、文明度の低い星です。

そんな星に留まりたい理由があるとは思えません。何度も問いただしたのですが、テナガノリはただ笑みを浮かべ、はぐらかすだけです。そして、最後に言いました。

『おまえも旅を続ければ、いずれわかる日が来る』

わだかまりを抱えたまま、私はテナガノリと別れました。あれからさらに旅を続けましたが、いまだにあの言葉の意味がわかりません_」

風が吹き、草がなびいた。二人でしばらくその光景を眺めていた。やがてその風に添わせるように、バシャリがつぶやいた。

「……ですが、そう言ったときのテナガノリは本当に嬉しそうでした。あんな幸せそうなテナガノリの顔は見たことがありません」

そのやわらかな声が、風とともに流れていった。

第61話に続く

作者から一言
この物語における重要なエピソードが語られました。
「なぜテナガノリは星残る決断をしたのか?」
これが重要な謎になります。ラングシャックとは何かという謎にもつながってくるんですね。

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