オブラートーたった1分で読める1分小説ー
「やい、うすのろ! とうへんぼく! まぬけ!」
宇宙飛行士の男が空を見上げるように、ペトラ星人に向かって叫んでいた。
ペトラ星人は大型の巨人で、男の何十倍も大きかった。
同僚がたしなめる。
「おい、何やってんだよ」
「ストレス発散してんだよ」
「巨人が怒ったらどうするんだよ」
「こいつら人は食わねえし、おとなしいからキリンみたいなもんだよ」
「まあそれはいいけど、悪口ももう少しオブラートに包んで言えよ」
「その例えよく聞くけど、どういう意味なんだ?」
「オブラートっていうのは、半透明の薄い膜だ。粉薬など飲みにくい物を包んで飲むのに用いるんだよ。そうしたら飲みやすいだろ。
それが転じて、直接的な刺激のある表現は避けて、婉曲的にするっていう比喩で使うんだよ」
「なるほど」
そう男が膝を打つと、巨人が男をつかんだ。それから大きな葉で男を包むと、パクリと食べてしまった。同僚はかん高い悲鳴を上げ、ガタガタと震えた。
そこに巨人の友達が来た。
「おいおい、大丈夫かよ。たしかに地球人は良薬とはいうけど、苦すぎて食えたもんじゃないぜ」
「こいつらの話聞いてたらさ、この甘いマルキミの葉に包んだらいけるかなって閃いたんだ。ぜんぜん苦くなかったぜ」
「ほんとかよ。新発見だな」
ああと巨人がうなずくと、こう付け足した。
「あとこの葉っぱの名前をこれから『オブラート』にしようぜ」
↓7月11日発売です。冴えない文学青年・晴渡時生が、惚れた女性のためにタイムリープをするお話です。各話ごとに文豪の名作をモチーフにしています。惚れてふられる、令和の寅さんシリーズを目指しています。ぜひ読んでみてください。
コイモドリ 時をかける文学恋愛譚
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