人事戦略にありがちな3つの問題点とは?生じるリスクと解決策を紹介
目次
人事戦略は、事業戦略を達成するための重要な要素です。しかし一方で、人事戦略が十分に機能せず、悩んでいる企業も少なくありません。
そこで本稿では、筆者が仕事を通して複数社の人事戦略を見聞きするなかで感じた「人事戦略における3つの問題点」について生じうるリスクと解決策を紹介します。
問題点1. 人事戦略と事業戦略における整合性の欠如
人事戦略は、事業戦略と密接に連携し、事業目標達成を支援する重要な役割を担っています。ただ、人事戦略と事業戦略の整合性が十分に取れていないケースが散見されます。
整合性の欠如によって生じるリスク
人事戦略と事業戦略の整合性が取れていなければ、その後に立案される人事関連の施策も本来の目的に沿わないものになってしまいます。
とくに既存事業の成長と新規事業の立ち上げなど異なる目標を同時に追求する場合、人事戦略が曖昧になりがちです。
例えば、人事戦略に「自律的な社員を輩出」といったスローガンを掲げたものの、その社員が「既存事業の成長を支える人材」なのか、「新規事業を立ち上げる人材」なのかが不明確なケースが挙げられます。また、組織を良くする目的は「顧客へ価値を届け、利益を生むこと」であるはずですが、「良い組織を作ること」そのものが目的になっているような人事戦略も散見されます。これも整合性の欠如によって生じるリスクといえるでしょう。
解決策:問題を正確に把握した上で人事戦略を策定する
この問題点を解決するためには、事業戦略を理解し、人や組織に関する問題がどこにあるかを把握した上で、人事戦略を策定する必要があります。
例えば、既存事業の成長を支える自律的な社員を育成したい場合、その社員が現在の業務を改善できるかを考えることが重要です。
一方、新規事業の立ち上げに向けて自律的に行動してもらいたい場合、難易度がさらに高まります。全社員に同じ期待をすることはそもそも望ましくないかもしれません。また、新規事業のアイデアを持っているのはごく一部の人であることが多いため、全社員に自律性を促すのではなく、まずはアイデアを持っている人々を見つけ出すことが重要です。
そのため、全社員向けの自律社員育成プログラムではなく、選抜型の新規事業創出プロジェクトのような施策がより効果的といえます。
なお、人事戦略とは文字通り、人事が立てる戦略です。戦略の必要性は、資源が限られていることに由来します。ここでいう資源とは、ヒト、モノ、カネ、情報、時間を指します。もし資源が無限にあれば、戦略は必要ありません。しかし、現実には資源は限られているため、何にどれだけ資源を投下するのか意思決定する必要があります。
この資源を投下する際に、適切な選択と集中ができないと、成果が見込める活動に十分な資源を割り振れない可能性が高まります。これが、戦略とは選択と集中と言われる所以です。
人事の方とお話しすると、全社最適な施策を打とうとして苦労されている事が多いです。しかし、全社最適な施策だとリソースを十分に割くことができず、中途半端な施策に終わってしまいます。
「仕事ができる人に案件が多く振られる」「売れている商品に対してマーケティング予算を多く割り当てる」といったように、人事もどの社員、あるいは、どの商品を対象に資源を集中するのか決める必要があります。
問題点1のまとめ
人事戦略と事業戦略の連携方法を具体的に検討することが重要です。そのためには、事業戦略の問題点を明確にし、それをどのように人事で支援するかを具体化する必要があります。
例えば、リーダーシップ開発や自律性の向上は、全ての事業戦略に適用できると考えられがちですが、実際は「どの様な事業課題をどの様に解決しようと考えているのか」を具体的にイメージできるまで検討しなければならないのです。
問題点2. 数値目標の欠如
人事課題は定性的な側面が強い一方で、数値化することで課題を可視化し、解決策を効率的に検討できます。しかし、人事戦略に数値目標が設定されていないケースが多くみられます。
数値目標の欠如によって生じるリスク
数値目標が設定されていないと、以下のような問題が生じます。
成果を客観的に評価できない:人事目標が定性的な情報になっていると、成果の良し悪しを客観的に評価しづらくなります。その結果、人事施策の効果測定も困難になります。
コミットメントが低下する:問題を定量的に示せないと、仕事へのコミットメントがしづらくなり、効果的な解決策を見つけることが難しくなります。
これらの問題を解決するためには、人事目標をできるだけ数値化し、定量的な指標を用いて人事戦略を策定・評価することが重要です。
解決策:「そのためにどうする?」を問う
では、人事課題をどのように定量的な目標に落とし込めばいいのかを解説します。目標を定量化するためのポイントは「目標の分解」です。
例えば「新規事業を創出する人材を生み出す」という抽象的で定性的な目標があるとします。この目標に対して、「そのためにどうする?」という問いを使って掘り下げていきます。具体的には、下記の通りです。
このように、より具体化するために「新規事業アイデアを持っている人を募る」という内容に対して、さらに「そのためにどうする?」と問いかけて、具体的な行動をイメージできるように落とし込むと良いでしょう。最終目標を達成するために、どのようなステップを踏む必要があるのかを考えると、中間目標が考えやすいです。
多くの場合、「そのためにどうする?」という質問を繰り返すと膨大な数の「やるべき活動(≒中間目標)」が見えてくるため、優先順位をつける必要が出てきます。
この具体化された目標の中で「特に事業部に貢献できそうな活動は何か?」を考え、優先順位を付けていきます。
このように、漠然とした目標をいきなり数値化しようせず、具体的な活動(≒中間目標)に落とし込むことで、より目標を定量的にとらえやすくなります。
例えば、「新規事業を創出する人材を生み出す」ではなく、「筋の良い新規事業アイデアを持っている人を現場から〇名発掘する」といった目標が望ましいです。
もちろん、発掘だけではなく事業化する必要もあるため、他の目標設定も欠かせません。
問題点2のまとめ
数値目標を設定することで、人事戦略を明確化し、具体的な施策立案とその効果測定を実現できます。上記の解決策を参考に、自社の状況に合った数値目標を設定し、人事戦略の策定・評価に役立ててください。
問題点3. 経営者依存の課題設定
多くの場合、人事戦略は経営者の指示に基づいて立案されます。例えば、人事担当者に「なぜこれらを重要課題として設定したのですか」と尋ねると、「経営者が人材や組織の問題を挙げたからです」という回答が返ってくることがあります。しかし、経営者が必ずしも人材や組織の専門家であるわけではありません。そのため、経営者の指示だけに頼って課題を設定すると、重要な課題を見落としてしまう可能性があります。
経営者依存の課題設定によって生じるリスク
経営者依存の課題設定をしてしまうと、以下のような問題が発生する可能性があります。
経営者の思い込みや偏見に基づいた課題が設定されてしまう:経営者の主観的な意見や経験に基づいて課題が設定されるため、客観的な視点が欠如し、誤った課題設定に繋がる可能性があります。
現場の声が反映されない:経営者からの指示は、現場の状況を十分に反映していない可能性があります。現場の声を無視した課題設定は、現場のモチベーション低下や離職率増加などの問題を引き起こす可能性があります。
解決策:現場の声やデータによる多角的な課題設定
これらの問題を解決するためには、経営者の指示だけでなく、現場の声やデータを収集し、多角的な視点から課題を設定することが重要です。人事部門は、経営者と現場との橋渡し役として、より客観的で効果的な課題設定を行う役割を果たします。
なお、事業戦略の理解が不足していると、現場に寄り添い過ぎた人事施策になる可能性があります。そのため、人事戦略を策定する前に事業戦略を理解し、事業戦略を推進する上でどのような課題があるのか人事なりの仮説を立てられるようになると良いでしょう。人事なりの仮説が立てられないと、経営者の御用聞きになり、経営者から見えている課題以上の課題に気づけなくなってしまいます。
問題点3のまとめ
人事戦略における課題を設定する際は、経営者の指示に依存するのではなく、多角的な視点をもち、人事自らも事業上の問題に関する仮説を立てる必要があります。さらに、現場の声やデータも収集し、分析することで、より客観的かつ効果的な課題を設定できます。
人事部門が課題設定を能動的に行えば、より効果的な人事戦略を策定し、企業全体の成長により貢献できるでしょう。
まとめ
人事戦略は、企業にとって重要な経営テーマです。今回紹介した問題点を解決し、効果的な人事戦略を推進することで、企業の競争力を強化できます。
また、人事戦略を事業戦略と密接に連携できれば、企業全体の成長も促せます。
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