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【日記】氷室冴子先生の影響

こんにちは、唐梨です。
今回は、私の思春期形成に大きな影響を与えてくれた作家さん、氷室冴子先生について書かせて頂きます。



氷室作品との出会い

氷室作品との出会いは、中学生の時だった。代表作である『なんて素敵にジャパネスク』の漫画版が、学校の図書館に置いてあったのである。
当初から漫画は大好き、学校の授業でも古典が大好きだったので、自然な流れでなんとはなしに手に取ったのが始まり。
そしてハマった。山内直美さんの可愛らしくも繊細な素敵な絵柄と、氷室さんが生み出すキャラクターの魅力に。



瑠璃姫の魅力

特になんといっても瑠璃姫。
破天荒で、あけっぴろげで、オープンマインドで、義理人情に厚くて。
かといって、勢い一本のパワー系かと思いきやそんなことはなく、とても冷静で頭が切れ、客観的に自分や周囲の状況を把握するフラットさも持ち合わせていて。

平安時代ではなく現代に生まれていたら、バリバリ仕事のデキる女性になっていたんだろうなぁと思わされるキャラクターである。
きっといろんな会社から引っ張りだこの人材、あぁでも瑠璃姫だったら会社に縛られるのに向いてなさそうだから、むしろ自分でゼロから会社興しちゃいそう、なんて思ったり(笑)

とにかく、権力にまったくおもねらず、本人の生まれながらのバイタリティがすさまじく、漫画の画面を縦横無尽に暴れまわる姫君なのである。



瑠璃姫のセリフ回し

氷室冴子先生の、登場人物に臨場感やリアリティを与えるセリフ回りは一級品だと思う。
当時中学生だった私は「ああ、これくらいのびのびずけずけ暴れ回るっていいなぁ」と思った。
私も親に対しては万年反抗期だったので、共感がすごかったのだ。

特に瑠璃姫のセリフ回しが好きだった。昭和~平成への移行期の時代の作品ゆえ、口調は少し女言葉だが、とにかく口語調なのである。
さらに、基本的に瑠璃姫のモノローグ形式で話が進んでいくため、読者は瑠璃の視点に寄り添って物語を読み進めていく形になるわけだが、それがとても良かった。
瑠璃姫の発言がとにかく単純明快でスカッと痛快なのである。

前述の通り、万年反抗期だった私は「自分は結婚願望がないのに結婚しろと言ってくる父親とバチバチやってる瑠璃姫」という1巻の冒頭シーンから惹きこまれた。
傍から見ていてやりとりが小気味よく、気持ちが良いくらい、いい意味でずけずけ言い合っているのである。



破天荒さの裏側に…

そう、瑠璃姫は確かにアグレッシブで、まぁたまに傍若無人だったりもするんだけれども、じゃあワガママかというと実は全くそうではない。

もちろん自己主張はかなりするけれど、それだって「私はこう思う」ということをはっきりきっぱり言っているだけで、もし他に良い意見や代替案があれば、客観的に見てそちらを採用するクリアな視野を持っている。自分が間違っていると思えば謝る器の広さも持っている。というか、むしろ人情家で、自ら首を突っ込んで解決に携わっているくらいお人好しだ。
瑠璃姫のキャラクターは間違いなく濃いが、その言い分は文句というよりディベートなのである。

その「言いたいことは言うけれど、実は周囲への配慮も欠かさず、人を引っ張っていけるだけのマイルールや仁義がある」ところに、かくありたいという理想を私は見出して惹かれたのだろう。



吉野への憧れ

『なんて素敵にジャパネスク』の私にとってもう一つの効用は、奈良県への憧れを芽生えさせてくれたことだ。

古典の授業は大好きだったけれど、それまではベタに「古典=京都」という意識しか私は持っていなかった。
それが、この作品では吉野(今でいう奈良県吉野郡吉野町あたり、またはその周辺地域)が重要な場所として出てくるのだが、その描写がまぁぁぁぁ魅力的なのである。
今をときめく都の京都と違って「昔は都だったけど今はそうではない場所」だからこその、のどかな空気、ちょっとした寂しさや哀愁、豊かな自然がある。
山内直美さんの絵も演出も素晴らしいので、私が言葉を重ねるよりも、ぜひ原作を読んでほしい。

この作品を境に、私は京都よりも奈良びいきとなり、大学生になってからは『万葉集』や『古事記』の現代語訳を読むようになり、漫画も里中満智子の『天上の虹』や山岸涼子さんの『日出処の天子』を読むようになり、本も和辻哲郎の『古寺巡礼』を読むようになり、写真は入江泰吉の作品を画像検索しては心ときめくようになった。さらには吉野から地続きの熊野にも興味が広がり、現代で言う和歌山県や三重県へも古代ロマンが広がった。

こんなにも芋づる式に私の興味関心を広げてくれ、人生の楽しみを増やしてくれたことには、感謝しかない。

もう氷室冴子先生はお亡くなりになられてしまったけれど、成長期の私の核の一つを形成してくれた、大切な大切な作品である。

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