酔って思ったことを連綿と書き残す36「現実逃避はつづくよどこまでも」
はしがき
例の続きです。
酔って自分の作品をネチネチするやつ。
今回は、シン・死の媛の、死の媛パートの一部です。
残虐表現が含まれますので、嫌いな人はそっと閉じてくださいね。
前回も書いたけど、シン・死の媛のプロットは、まだ全然できてないです。
ただ、こないだぺらっと出した、未完成の先生パートを見てて、章ごとにメイン人物を分けてしまえ、と思いました。
なので、一章目を先生パート。二章目に死の媛(雨)と燦国総統閣下。三が、嘉国女王陛下かな。四と五は、分けられなさそうなので、みんなで仲良く、四は宵花祭(10/23)、五がその七年後。
というのだけ、考えました。
なので前回ペラっと出した死の媛の部分は、今回の二章目に移動。
で、今回ものっけてます。かなり、書き換えた。
あとは、前に「死の媛」を作った時は、異世界ファンタジーだ、と思って、とりあえず雅っぽく、可能な限り日本語(カタカナNG)にしてたのを、シン・死の媛では、現代ファンタジーに変えています。これは、前に酔って改変した外伝の「月に乞う/雨に乞う」の時には、もう変えてます。
昭和10年代(1938年ごろ)の、異国の話という設定に変えました。
そうなると、色々と使えるネタがあって。
勉強しないといけないことも、わさわさと出てくるというか。
そもそも、その時代のことを知りたい。
文化だったり、使ってるものだったり、言葉だったり。例えば、戦前も電車の定期券があって、それはパスと呼ばれてたらしいとか。
あるいは、信号のことを、ゴー・ストップ、と呼んでいたらしい、とか。
「月に乞う/雨に乞う」でも登場した、夜間急行も、そうだね。前回の先生パートで、氷が7銭も! なんて書いたのも、そういうことです。
そういうのを、知りたい。使いたい。
あとは、昭和10年代ごろの、文学作品の言葉遣いや漢字も、当然使いたい。
ええ。D先生のお出ましです。
先生が絶好調になっていく、当時の作品をわあわあと読んでいます。
今回、遊びでペラっと書いた死の媛パートには、「クラシック、使えるぜ!」と思い、クラシック音楽を多用しましたが(当時の音楽といえば、クラシックだったらしい)、音楽のワードで言うなら、当時は、ドボルジャーク、ヴァーグナー。ウイーンは、ヴィーン(なんか可愛い)。
という感じで、なにかと勉強をしたいのです。
なので、シン・死の媛のお遊びはここらでやめて、次は本当に、今度こそ、書きかけのスコーク77だわ。
今回、酔った勢いでドクトルが登場したのが、個人的には胸熱でした。
医者は、使えるぞ。
ちなみに、ヴァレンタインの日に、Amazonさまより、ヒットラーの本が我が家に届きます。
水木しげるさんの「ヒットラー」はもともと持ってるのだけど、今度届くのは、ガチのやつ。Amazonポイントで、買いました。
ベートーヴェンも、恥ずかしながら、買いました。ミサ・ソレムニスの音源。あとは、ロマン・ロランも。
案外、好きじゃないんですよ。ベートーヴェン。
感動しすぎてしまうので。
私自身が、結果的に、側から見ると悲愴な人生になってしまったことも相まって、なんというか、身につまされます、と言いましょうか。
戦時中、辱めを受ける前に飲め、とお上の方が女性に青酸カリの包みを渡した、なんて話が、方々であったと聞きます。
優しいね。
生き残った人は平和を訴えるか、それを、そのままに書き残すか。
私は後者で、偏屈だと思います。
この死の媛パートは、大義的な意味合いで、自身の体験談を混ぜています。ゆえに、残虐そのものです。
「シン・死の媛」の第二章は、きっと凄惨な内容になるでしょうね。
自分との折り合いの付け方に、案外、苦労するのかもしれない。
ただ、やっぱり、いいですね。ベートーヴェン。改めて聞くと、電車の中でもシンプルに泣いてしまう。何を聞いても、良すぎるのです。
でも、個人的には、ヘンデルが好きだな。
そして、来月は、日本武道館の近くにある「昭和館」へ行ってきます。
ああ、もう、めっちゃ、楽しみすぎる。
いや、本当の目的は、横浜で開催中の神奈川近代文学館の文ストコラボです。
もう、本当、行きたい。
本当、今すぐにでも、港のみえる丘へと飛んでいきたい。三島さんの直筆見たい……太宰さんのお手紙、入水当時の、新聞記事!? 安部さんのワープロ!!!
読みたい……
見たい……
私に、翼と、連休とが、あったなら!
ああ。発狂した。
でも、割と、私、真面目でしょう?
シラフは、そうなんです。
でも、本文を書くのは、酔って、やるんです。ばかだなあ。
余談。
今日、実家に行きましたら、母しかおりませんでした。
実家には、父、母、兄が住んでいるのだけど、「皆さんどちらへ?」と尋ねたところ、父はもともとがん患者なのですが(でもアル中)、入院して手術していました。
明日、退院ですって。
郷里に住んでるのに、知らされもしない私。
いいけど。
ちなみに、次に再発したら、アウトだそうです。結構、一大事じゃないのか?
*****
第二章「死の媛」
歓声。
黒が、たなびく。
微風。
それは、生ぬるく、澱み、体液の香を宿している。
空気は、慄えている。
あるいは、奮えている。
恐怖に。
狂信に。
胸臆に。
享楽、に。
人界ならざる、奈落への開門。
舞台は、死の回廊。
処刑の地。
風が時折、靭く、大鎌のように、舞台を薙ぐ。
それは、つめたさを、含む。
嵐の、前ぶれ。
天上の雲は、次々と東へ。
黙して、語らぬ。
それが、ファクトだ。
人が、うつくしさを手に入れることは、ない。
人あらざるが、人。
黒は、それを智る。
時計台の、短針は五、長針は十二へと、揃った。
午後、五時。
鐘声。
総統閣下に、敬礼を。
黒は、回廊の直線を、右から左へ、ゆらりと、移る。その微動は、遊糸のように、不穏。
空気を孕んだ、不確かさ。
左手には、鋼鉄。
オートマチック・リボルバー。
空は燻み、微細な朱を、甘受せんと欲す。
夏宵には、まだ早い。
括り付けられた、三十余の肉叢。
その前を、黒が、ゆらり。
拍手が、鳴る。
声が、鳴りはじめる。
初めは小さく、少しずつ、大きく。
感情の、昇華を辿る。
それは、聖歌。
見捨てられし魂へ、惨酷に、浴びせるもの。
喚声、ささめき、胴声、
歎声、
轟、轟。
激声、泣き叫びの声。笑声、
罵声、
万歳三唱、欲への墜落、悪声。追従。
喝采、
声なき、顫え。
繽紛と。
落花のように。
その、妙なる楽の音は、不協和音。
数百の、観衆の、顕なもの。
弥撤曲。
あらゆる心が、この舞台に、声色を添える。
黒の聴覚を、支配する。
いつからか。
黒は、壇上から、立ち見の観衆席へと、視線を伸べる。
この感情が、わからない。
尚も、揺り、すすむ。左方に、三日月。
「 」
長針も、またひとつ、盤上を歩く。
拍手は、消えない。
この感情も、また、不詳。
鳥の囀りにも劣る。
「シノヒメサマ!」
或る声、ひとつ。
音程の不確かな小世界を、小さく、切り裂いた。
楽は、強へ。
あまたの声音がうねりを伴い、ひとつになって、夕陽の空へと、錯綜の渦を巻く。
「シノヒメサマ」「シノヒメサマ」「シノヒメサマ」「シノヒメサマ」「シノヒメサマ」
「シノヒメサマ」
「シノヒメサマ」「シノヒメサマ」「シノヒメサマ」「シノヒメサマ」
「シノヒメサマ」
「シノヒメサマ」
「シノヒメサマ」
「シノヒメサマ!」
クレッシェンド。
それは夏の残火の、蝉声にも似て。
「コロセ」
「コロセ!」
転調、した。
「コロセ」
つと、勁風が、一迅。
左から、右へ。
黒を、空へと勾引かした。
ふわり、と。
その姿を、顕にする。
ドレスの裾は、ひらめき。
ベールは、空中を、力強く、舞いあげた。
黒髪がくずれ、流れ、はためく。
真白の顔が、覗く。
すがたかたちの、非、現実。
表情は。
彼女は、立ち止まる。
デクレッシェンド。
楽は、間の刻。
息を、のむ。場内の、その音さえも、もう。
「 」
空の、向こう。
三日月の、向こう。
赤く塗られたくちびるが、静かに、空気を喰む。
「 」
「 」
シノヒメサマ。
小さな、鬨の声。
それに、呼応するように。
或いは、気付かされたかのように。
楽は、演奏を始めた。
新たなる曲。
アレグロ・ヴィヴァーチェ、
フォルテシモ。
讃美せよ。
彼女を。
賛美せよ。
閣下を。
賛美せよ。
正義を。
賛美せよ、全能を。我らが国、燦国を。
シノヒメも、また、歓声と共に、歩き始める。
風の揺らぎで、ベールはふたたび、彼女の能面を覆い隠した。
さあ、現実へ。
あの世を、見ましょう。
Et vitam venturi saeculi.
「コロセ」
「コロセ」
私の名は、死の媛。
この国の、浄化を司るもの。
ゆっくり、ゆっくりと。
肉叢の前で、静止。姿体を、右転。
左腕を、翻転。
ロック・オン。
頌歌の終曲。
声の連弾が、止む。
間。空白。
不動。
「 」
長針が、また一つ。
銃声は空を、真っ直ぐに、撃ち抜いた。
******
浅眠より、目覚めた。
いつの間にか、眠っていたようだ。
音楽が、不分明に流れている。
それは、厚い壁を隔てた、向こう側から。壁時計は、十時を報せようとしていた。昼では、ない。
夜だ。
左手はおもたく、疲れを残している。
人をあやめた、引き金の感触は、消えていない。
遠くのざわめきは、少しずつ音量を落として、総統と副総統、二人の会話が、時折、ピチカートのように、不連続して聞こえてくる。
私には日々、数えるものがある。
今日が何月何日か、ということ、あとは、今日浄化した、人命の数。そして、これまでの数と加算した、消した人命の総数。
今日は、おそらく、八月二十九日。
今日の人命の数は、二十一。
これまでの総数は、二九九八七。
明日で、三万を超えるだろう。
日付に関しては、おそらく、合っている。四年に一度、閏年があるけれど、今のところは、ずれてはいないように思える。
なぜなら、年に一度だけ、公開処刑のない日が存在するからだ。
それは、冬。
おそらく、元旦。
その日だけは、ここも、閑散とする。
必要最低限の衛兵と、電話交換士。ドクトル・ディアベリ。この人は、私たちの専属医師だ。医療の最先端の異国、獨逸の人だという。
そして、ここに住まう、私たち。
つまり、私と、総統閣下。
そういった一日が、必ず訪れて、私が数える日付と、今のところは狂いがない。
私は三度、処刑地、死の回廊にて、桜の花片を見た。
今年か、次の一年は、きっと、閏年だろう。
壁越しの、くぐもった音楽を、ベッドの上で追いながら、死の媛は、無機質な天井を見つめている。
灰色。
混凝土で、冷たく、粗々しく、低く、おもたい。
豆電球が空にひとつ、ぽっかりと、黄昏の月のように浮いている。乏しい光は、ぱち、ぱち、と音を立てて、時折、消える。以前は、ちゃんと点いていた。
きっと、電力そのものが、泡沫なのだろう。
それを思う理由は、他にもあって。
日々の、食事。
ここに住み始めた頃は、白米だった。
今は、蕎麦の実。
それも少しずつ、分量が減ってきている。
あとは、浄化する命らの、体つき。
まずしい匂いが、とてもする。
ここを、身の回りの人らの表現するところとして、『地下壕』と、表現する。
地下壕には、いつもレコードが、弛みなく流れている。
戦争交響曲を好む。
そして、副総統閣下がいなくなったであろう、これぐらいの時刻。
いとまの音。ずっと遠くの扉の、重苦しく、つめたい開閉音から時をさほど待たずして、曲調は、戦争交響曲から、聖歌へと変わる。
ミサ・ソレムニス。
Kyrie eleison.
どちらが、彼の本当なのか。
そこまでを思った時、厚みのある鉄扉のひとつが、ギギ、と音を立てて、開かれた。
死の媛の居室には、二つの扉がある。
総統執務室へと繋がる扉。
あとは、浴室への扉だ。
開かれたのは、当然。
「起きているね」
扉の向こうに、マホガニー製の執務机を垣間見た。
軍服姿のまま、お出ましになられた燦国総統閣下は、お目配りを、死の媛の向こうへと発せられる。
そこには、部屋付の衛兵がふたり。
敬礼をした彼らは、軍足高らかに、執務室の向こうへと消えた。
扉が、閉ざされる。
死の媛と、総統閣下との、プライベエト・タイム。
「ドクトルはとても、生真面目でいいね」
閣下は、ご機嫌のようでいて、それは、フェイクだとわかる。三年と、少し。
この生活が長きに渡るにつれ、死の媛は、彼を理解していた。
この人が、この部屋を訪れるのは、決まって、神経衰弱の時である、と。
そして人を褒めそやす時は、決まって。
「君は、彼が、好きかい?」
裏腹である、ということ。
「 」
死の媛は、声を持たない。或る時に、それは喪われた。代わりに、首を横に振り、閣下に、その意志を表明する。
ドクトル・ディアベリは、優秀な医師。
ただ、好きか否か、と、問われれば、嫌いだった。
実地的なようで、狂想者のように、他を試すようなところがある。
それが、生来、美しくない彼の青白い顔を、さらに醜くしている趣がある。
直視のし難い、サディスト。
残虐性を隠し持つ、生真面目な利己愛者。
閣下が、彼のことをおっしゃる、ということは、今宵は、そのドクトル絡みなのだろう。
試薬。
今度は、なんの。
思い終わらぬうちに、閣下は、静かに、軍足を鳴らした。執務室から聞こえる聖歌は、祈る。
憐れみ給え、と。
「良いものは、良い」
閣下は、そういった。死の媛はベッドの上に、寝そべったままでいる。
この部屋にいる時は、平伏しなくて良い。
それは、この燦国総統閣下の、初期からのご命令であるから、それに背くことはない。
だから、ぼんやりと、横たわっている。
ベッドだけを設えるには広すぎるこの居室を、閣下は軽やかに五歩、進む。
すると、彼を、眼前に望むようになる。
蓄えられた髭は、ずいぶんと白髪が増えた。
右手に、丸薬。
「ゴム製のカプセル、だそうだよ」
閣下は、手のひらの丸薬を見せて、そう、言った。
見た目、ゴムのようには見えない。
「口に含んでも、解けない。飴玉のように口の中を転がしても、溶けない」
そういって、閣下は身をかがめ、自身で含まれた口内の、丸いものを見せる。
「おのれで噛み砕いて、そうしてようやく意味をなす。そういう作りだそうだよ」
面白いね。閣下は、笑っている。ドクトルを否定する表情は、よくわからないものになっている。
真偽は、測れない。
ただ。
「舐めてごらん」
言われるがまま、彼の手に晒されていたゴム製の試薬を、舐め取る。
噛みしだいた。
「成分は、」
苦味が、広がる。
「特上級の、媚薬だそうだよ」
ドクトル・ディアベリも、まもなく入室した。彼もまた、この地下壕の住人であったから。
そして、同じくして入室した、衛兵、十数名にも投薬され、カプセルは、次々、噛み砕かれる。
流れる音楽だけが、現世への、救いを求める。
実験には、偽物と本物とを使用する。
あの日、阿鼻叫喚のさなか、私は、心底、このドクトルを軽蔑した。
衛兵らは、みんな、数分とかからず、息絶えた。
彼が試したのは、媚薬ではなかった。
殺人の、薬。
「みんな、死んだね」
そして、レコードの音が途切れた時。すなわち、ミサ・ソレムニスのフィナーレのあと。
遺された命、総統閣下と、ドクトル・ディアベリは、息をはずませながら、黙祷を捧げ、私を遺体の海へと焚べたまま、立ち去った。
時計の針が八時を指し示すまで、私は、その静かの海の慰藉となった。
亡き骸の中で目覚める、つめたい朝。
地下壕に鳴る音楽は、ベートーヴェン、第九。
先生なら、きっと、こう言うだろうね。
「女の上なら、まだしも!」
笑っちゃう。
きっと、そうに違いない。あの人は、そうやって、おのれを誤魔化すのだ。
私は、この感情を、なにひとつ、表現できない。
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