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【ショートエッセイ】あの通路を突破せよ!

たまに足の悪いお袋を車に乗せて電車で出掛けることがある。
まだまだ電車は身障者に優しくない。
自動車のありがたさが身に染みる。

最近は車両の中に車椅子スペースが設けてくれているが、どの車両にあるかがわからない。
ある時、当てずっぽうで乗ってみたのだが、見事に外れてしまった。
隣の車両にそのスペースがあったのだか、そこに行くには車両を連結する薄暗くて狭い通路を通っていかなければならない。
乗り込んだ車両にじっとしていてもいいが、車椅子のお袋は自分が迷惑になっていないかと人の目が気になるようだ。

「ここ、突破するぞ」
不安げなお袋をよそにぼくは突破作戦を開始する。

手動式の扉が2枚あり、この間に鉄板が2枚重ね合わせるようにして置いてある。
その鉄板には段差があって、電車の揺れとともに互い違いに動いている。
1枚目の扉を片手で支え、もう一方の手で車椅子をゆっくり押す。
なんとか通路内に進入。

次は鉄板の段差が越えなければならない。狭いうえに、片手での操作なのでなかなか越えられない。
なんとか越えた。次は2枚目の扉だ。
扉を右手で開けたままの態勢をすると、車椅子のハンドルを握る左手はぼくの身体の後方にある。
だから力が入らない。しかし渾身の力を込めて左腕を引き寄せる。
ダメだっ、車椅子が少し下がって車輪がまた段差に引っかかって進まない。かと言って右手は離せられない。
「もうだめかぁ」

そう思った刹那・・・、別の一本の手が伸びてきて車椅子を支えた。
今度は別の腕が伸びてきて、2枚目の扉を支えた。

ぼくの腕じゃない。
見知らぬ乗客の方がぼくらを助けてくれた。
お陰様でぼくらは薄暗い狭い通路から無事に脱出することができた。

ミッションは失敗したけど、ちょっとしたパニック映画のワンシーンみたいだった。


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