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夏の終わりに思うこと

普通なんかない。
それは救いであり呪いであり保険でもあり死刑宣告でもある。ある時には勇気づけられたそれに、今はどうにも苦しめられている。


この春、所謂「普通」のレールから外れた。

誇りでもあり後ろめたさでもあるそれが持つ輝きは私をナチュラル・ハイへと誘った。見るもの全てが美しく、やわらかく、仄かに熱を帯びていた。文字通り熱に浮かされながら、どこかで白昼夢を見ている気がした。今目の前の景色は幻覚で、気がついたら崖っぷちにいると言われても納得してしまうような危うさに何度もひやりとして、誰かにずっと目を覚ませと言われているような。いつ終わってもおかしくない時間を取りこぼさないように必死でもがいていた。


想定外のアディショナルタイムなのだから、1秒たりとも無駄にしたくなかった。


この4ヶ月を振り返る。
背中を撫でてくれる、頭を柔くさらっていく手。インクのかおり。アルコールを包む居酒屋から聞こえる笑い声。研究室のドアを開けると、モニター越しに大きな窓が見えた。丸みを帯びた残響が、苛立ちや衝動にそっとブレーキをかけてくれた。


何人もの人の顔が浮かんでは消えていく。笑っている。それが何よりの財産だと、今は痛いほどわかる。


全部、私には初めてのものだった。

普通じゃないから出会えたもの。思考の道筋。苦しいことも、いつかは過去になる。普通じゃない、は悪いことじゃない。大人が全て悪い人ではないし、子どもはみんな天使じゃない。

そう言い聞かせて今日も生きていくしかできない。胸のつかえが、そっと血液を流れていく。

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夏の思い出

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