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悪魔の子誕生に隠された真実に迫る「オーメン:ザ・ファースト」


1967年の大ヒットからシリーズ化され、
リメイク作品も作られた「オーメン」。

今回は4/5(金)から公開されている
「オーメン ザ・ファースト」をご紹介します。
※若干のネタバレを含みます。

悪魔の子"ダミアン"誕生の真実

6月6日午前6時に生まれた孤児を養子として引き取った外交官の男が、次々と悲劇に巻き込まれていくという物語を描いたレジェンドホラー「オーメン」。
1967年公開作の主人公・ロバート(外交官)には、「ローマの休日」で一世を風靡したグレゴリー・ペック。
低予算での製作にも関わらず、ショッキングかつインパクトのある映像と、悪の根源であり、作品のアイコンとなるダミアンの存在で大ヒットを記録しました。

一作目の大ヒットから、
悪魔の子・ダミアンの正体に迫る2作目、
最後の決着をつける3作目、
女性版?リメイクの4作目、
2006年にはオスカー俳優リーヴ・シュレイバーを主役に迎えたリメイク作「オーメン」が公開し、映画のみならずドラマも製作され、世界中にファンが多い傑作シリーズとなっています。
※一作目が傑作が故に、二作目以降は世間から厳しい評価となっていますが…

そんな「オーメン」最新作となる
今作「オーメン ザ・ファースト」は、悪魔の子・ダミアン誕生に隠された真実に迫るバックグラウンドストーリー。

<あらすじ>

修道女になるためにアメリカから単身ローマにやってきた主人公・マーガレットは、信頼する枢機卿の教会で奉仕を始める。
マーガレットはその教会で問題児として扱われるカルリータという少女が、周りと馴染めなかった自身の過去と重なり気にかけていく。
しかし、カルリータの周りでは不吉なことが度々起きており、ある日教会の修道女の一人・アンジェリカが、油を浴びた身体に火をつけて首吊り自殺をしてしまう。
恐怖に包まれるマーガレットの元に、カルリータの存在に隠された教会の秘密を知るブレナン神父が現れる。最初は神父を拒絶するマーガレットであったが、教会の邪悪な陰謀を知るうちに、恐るべき真実に気づいていく…


この作品はダミアン誕生に隠された真実が明らかになる前章となるお話です。
オーメンシリーズを知っている人はもちろんですが、前知識がなくとも十分に楽しめる完結型。

原作へ上手くバトンを繋ぐような構成でした。
スターウォーズネタで申し訳ないですけど、
「ローグ・ワン」に通ずる綺麗さを感じる。
(内容はエグいですけど)

続編の製作が決まっているのかは分かりませんが、ラストは続編を仄めかすような演出もあり、そうなると原作に繋げる為には色々と上手く整理しなきゃいけない部分が沢山あるよなあ、、と思ったりもして。

それでもって、原作へのリスペクトが凄い!!
原作ファンであれば、嬉しいデジャヴが沢山盛り込まれていて、個人的には同窓会のような気持ちに…笑

歴代シリーズ恒例の、
高台から女性が飛び降りて自殺をするシーン。
ダミアンの乳母的役割をしている女性が
Look at me,Damien! It's All For You(こっちを見て、ダミアン!あなたのためよ)」と言い放ち、自ら命を断ちます。

オーメン(1976)
オーメン(2006)

今作では、油に濡れた修道女・アンジェリカが首に縄を巻き、教会の高台から怪しげに手を振って「 It's All For You(あなたのためよ)」と告げているシーンが予告編でも映っています。

オーメン:ザ・ファースト(2024)
修道女・アンジェリカ

この後、彼女はマッチに火をつけて身体を燃やし、高台から首吊り自殺をするのですが、これがまさに原作の演出を上手く掛け合わせ、模したシーンでちょっと感動。

まあまあ酷評の「オーメン3」は、大人になったダミアンを聖なる短剣で殺そうと7人の修道士が奮闘するお話ですが、そのうちの一人がダミアン暗殺に失敗してニュース番組のスタジオで首吊りになり、おまけに照明が引火して地獄絵図になるシーンがあります。おそらく、今作のアンジェリカ自殺のシーンでは、歴代の乳母たちと三作目の演出を掛け合わせたんじゃないかな、と推察。

ちなみに今作では、悪魔の子・ダミアンの役割をカルリータが担っています。カルリータは教会の孤児院の中で問題児として扱われて、孤立しています。

カルリータ(ニコール・ソラス)

そもそも、一作目および2006年のリメイク版で自殺してしまう乳母は、ダミアンの誕生日パーティで突如現れた山犬を見ておかしくなっちゃうんですよね。

山犬(オーメン(1976))

今作では、アンジェリカとカルリータが密着しながら不吉な絵を描いており、アンジェリカの不適切な発言をマーガレットが注意してからアンジェリカが自殺に至る。
ここのシーンを観た限り、自殺のトリガーがマーガレットになっているので、マーガレットは原作でいう"山犬"の存在に重ねられています。

原作では、「ダミアンはジャッカルの子」だとブレナン神父がダミアンの養父に告げるシーンがあり、ヨハネの黙示録で獣を表す数字の「666」と、山犬=ジャッカルが繋がり、ダミアンの正体が悪魔の子であることが明かされます。

ウィリアム・ブレイク作「The number of the beast is 666」

山犬を見ることでどんな要素が働いて、ダミアンのためだと思い自殺に至るかの理由は明白にはなっていませんが、山犬とその子であるダミアンの存在が同じ空間に合わさることで、恐ろしい洗脳に巻き込まれてしまうのかもしれません。

また、原作でもリメイク作でも必ず「It's All For You(あなたのためよ)」という狂気じみた台詞がお決まりですが、そもそも何故ダミアンの為に死を選ぶのでしょうか?

今作「オーメン ザ・ファースト」では、
アンジェリカという修道女が自殺するわけですが、
有名なオペラの戯曲に「修道女・アンジェリカ」という作品があります。
17世紀・イタリアが舞台のオペラ第一幕。
未婚の母として息子を授かり、家から完投されたアンジェリカは息子と切り離されたあげく、贖罪のため修道院へ送り込まれてしまいます。

プッチーニ作「修道女・アンジェリカ」

修道女となったアンジェリカは息子の近況を知る者から、息子が2年前に高熱で亡くなった事実を知り、後を追うように自殺をします。しかし、神に使える者として自殺という大罪を犯したことで息子と天国で再会できないことを悟り、聖母・マリアに祈り、その罪が赦されるというお話。

キリスト教において自殺は大罪
天国への門が閉ざされると言われています。

「修道女・アンジェリカ」が今作に関わっているかの情報は出ていないので、あくまで推察ですが、不吉な予兆"オーメン"の始まりとなる事件を起こす修道女に「アンジェリカ」という役名をつけたのには、何かしら関わっているのではないかと。

ただ名前だけをスパイス的要素として掛け合わされているのか、そもそも関係ないのかも分かりませんが、キリスト教における自殺は最大の罪で、禁忌を犯しているということ。
また、この事件によって立て続けにマーガレットの周りで不吉な事が起きていく予兆(オーメン)を具現化したのがアンジェリカの存在なのではないかと勝手に推測。

アンジェリカの死はマーガレットを恐怖に陥れる始まりでもあり、後に付き纏うトラウマ的要素になっています。所々で、マーガレットは死んだはずのアンジェリカの幻覚を見るようになり、精神的に疲弊していくわけですが、作中では結局アンジェリカがどんな人だったのか、教会の中でもどんな立ち位置にいたのか等、ハッキリとした人物像は描かれていません。
ただ、映画の中でのインパクトある恐怖要因なのと、マーガレットとカルリータへ何かしらの気持ちがあったキャラクターなのは間違いありません。
演じられたイシュタル・クリー・ウィルソンの強烈な演技が忘れられなくて、出番はそこまで多くないですが目を引く女優さんでした。

イシュタル・クリー・ウィルソン

そして、ここから大きなネタバレを含む感想を書くので知りたくない方は閲覧を止めていただきたいのですが、

ダミアン・誕生に隠された真実というのは、
時代の変化により、教会の権力が衰えている中で人々の信仰心を復活させる為、教会自らが世界的脅威を創り出したことでした。
その脅威というものが、
人間の女性と山犬(ジャッカル)を交わせ、
"悪魔の子(ダミアン)"を誕生させる。

しかし、ただの人間と山犬を交配させても、死産や異形の子ばかりが生まれていました。
また、世界的脅威となる存在は男の子でなければならない。(作中で理由は言及されていません)
その為に教会は、悪魔の血と適合させる母体(女性)を育て、時が来たら山犬との子どもを身籠らせて完成した悪魔の子を作り出すことを目的としていました。

マーガレットは、アンジェリカの死やクラブで出会った男性・パウロが交通事故で死ぬ等、自身の周りで度重なり起きる不吉な出来事から、ブレナン神父に頼まれていた修道院に隠されているカルリータの出生記録を探し出します。
修道女の長であるシルヴァの部屋の奥に隠し部屋があり、そこで見つけたのは「スキアーノ13」と書かれた出生記録でした。中身を見ると、恐らくカルリータだと思われる赤子の写真と健康状態の記録が。
他の出生記録も見てみると、同じく「スキアーノ」と書かれた出生記録がいくつも残っており、中身を確認すると異形の赤子の写真や「死産」の記録ばかり。多くの赤子の額には、獣の数字である「666」のアザもありました。

マーガレットは出生記録を持ち出し、カルリータを連れて修道院から逃げ出すように伝えます。
しかし、異変に気付いた修道女たちが追ってきて、マーガレットを拘束し「悪い子の部屋」とされる密室に隔離されます。
「悪い子の部屋」では、高頻度でカルリータが隔離されており、床にはカルリータが描いた悍ましい魔法円が。マーガレットは様々な幻覚を見るようになり、恐怖で発狂しているところを修道院に勤めるガブリエルという男性が出生記録を持ち出して助けに来ます。

マーガレットとガブリエルはブレナン神父の元を訪ね、カルリータが恐らく次の母体となる話を神父から聞かされます。
ブレナン神父は次の母体となる女性の赤子の頃の写真を手に入れており、その赤子の額には「666」のアザがありました。しかし、マーガレットは拘束される直前に、カルリータの口の中に「666」のアザを見つけ、写真の赤子とカルリータは別人であることに気付きます。
持ち出した出生記録の中から、新たに母体となる女性を探し出し、一つだけ写真が剥がされている記録を見つけます。神父が持っていた写真を剥がされた部分に当てはめてみると、ピッタリとハマり1950年6月6日午前6時生まれの子が次の母体であると確証します。
その瞬間、マーガレットはクラブで出会ったパウロが交通事故で死ぬ直前に「アザを探せ」と言っていたことを思い出しました。
クラブで踊っていた際に、パウロはマーガレットの髪をかきあげていました。そこで、クラブで踊った後の記憶がなかったマーガレットは、家で目覚める前に教会の修道士たちに拘束されて、獣に襲われた記憶を思い出します。
そこで神父に確認してもらうと、マーガレットの額には確かに「666」のアザがありました。

既に悪魔の子を身籠っている可能性があるマーガレットは、信頼できる運転手ルカの助けもあり、神父の知人である医師の元へ急ぎます。
しかし、向かう途中で車に衝突されてマーガレットは教会の者に捉えられてしまいます。

大きくなったお腹から子供を取り出され、生まれた子どもは双子の女の子と男の子でした。
教会は待望の男の子の誕生に歓喜し、男の子だけを取り上げ布に包みます。マーガレットは、絶望と満身創痍の中で「抱かせてほしい」と男の子を抱き抱えます。そこで、信頼していたローレンス枢機卿の首をメスで刺し、そのまま男の子の首も刺し殺そうととします。しかし、躊躇したタイミングで男の子は奪われ、親友でありルームメイトであった修道女のルスに腹を刺されてしまいます。

教会の者たちは男の子と共にその場を去り、マーガレットと女の子が残された場所に火をつけます。
なんとか生き耐えているマーガレットは、残された女の子を抱き抱え守ろうとします。そこにカルリータが現れ、マーガレットと女の子を助け出します。
その場から逃げる際に、マーガレットは燃えさかる炎の中に獣・ジャッカルの姿を見ました。

それから数年が経ち、マーガレットはカルリータと娘と共に山奥のロッジで暮らしていました。
そこに、ブレナン神父が現れ、教会が追ってくる旨と息子の名前を告げに来ます。その息子の名前は「ダミアン」だと。



よく出来てるストーリーだなぁと、拍手したくなるぐらい私は好きでした!演出も、怖いしなかなかショッキングな映像もあるけれど、とにかく総合的に満足度が高かった。

謎に包まれていたダミアン誕生の裏には、こんなドラマがあったのかと。より原作を見返したくなるような終わり方で良かったな。
ただ、マーガレット・カルリータ・残された娘はどこで何してるのか?っていう疑問が残ってしまいますが。是非アナザーストーリーとして、別角度から描いてもらっても面白そう。

そして、アンジェリカもそうですが、
出てくる登場人物の名前がキリスト教史の中でも重要な人物の名がつけられていてそこも興味深かったです。

隔離されていたマーガレットを助けたガブリエルという男性が出てきます。
ガブリエルもブレナン神父からカルリータと教会の秘密を聞かされ、神父に協力する一人なのですが、ともに出生記録を確認する場で、マーガレットは自身の妊娠を悟ります。

キリスト教では、三大天使の一人でもある
大天使・ガブリエルという天使が存在します。
ガブリエルは、聖母マリアの元へ行き、イエス・キリストを身ごもっていることを伝えた「受胎告知」が有名です。

フランジェリコ作「受胎告知」

あくまで私の考察になりますが、
隔離されたマーガレットを助け出し、妊娠に気づく出生記録を持ち出した本人として、映画の中でのガブリエルは同じ名前の大天使・ガブリエルと同じ「受胎告知」の役割を担うキャラクターだったのではないかと。(身籠っているのは悪魔ですが)

まあ、修道院や教会に身を置く人たちは、
洗礼を受けたら洗礼名(キリスト教にまつわる聖人や天使の名前)を付けられるので、偶然かもしれませんし深読みしすぎかもしれませんが。
何らか、監督として花言葉のようにキャラクターにもたらす役割と意味をつけたかったのかな?なんて思ったりしました。

そして今作は、教会・悪魔の餌食となる女性の存在を訴えかける物語でもありましたね。
女性の身体(母体)が搾取され、選択する権利を奪われてきた歴史にも問いかける作品。
身体上、子どもを産むのは女性になりますが、産む産まないの選択も出来ず、命を落とすかもしれないリスクがある出産を、社会から強いられてきた恐ろしい現実を突きつけてきます。

宗教という組織が神の御加護の下という理由を利用して、恐ろしい犯罪に手を染めてきた真実。
映画「スポットライト」でも描かれていたように、現代でも教会の神聖であるイメージの裏で、聖職者が児童へ性的虐待を行っていたという事件もあります。

宗教への信仰は個人の自由であるし、制限ができるものではありませんが、今まで起こってきた戦争や悍ましいテロ事件等の根本には殆ど宗教が関わっていることも忘れてはならないと感じます。

このお話、要約すると、
悪魔は自然に存在しているものではなく、元々人間の欲望や傲慢さによって生まれた、創造物の一つに過ぎないということです。

先日から公開されている「オッペンハイマー」もそうですが、現在の世界を脅かしているものは全てこの私たち人間が創り出したもの。
原爆も、温暖化も、戦争も、ダミアンも(笑)
全ての始まりは人間であることを教えてくれるような作品でした。

キャスト陣も本当に良かったな、
主演のネル・タイガー・フリー清純な姿から恐怖と狂気に満ちた姿の振り幅から、確かな実力と俳優としてのエネルギーを感じられました。

マーガレット

なんか見覚えがあるな〜と思ったら、「ゲームオブスローンズ」のバラシオン家の娘!!!

ミアセラ・バラシオン

サーセイの女としての強さ、凄かったですね…

そして気を抜いていたら、ブレナン神父役の
ラルフ・アイネソンもダグマー役でゲームオブスローンズ出てました。やはりこの作品、色んな意味で同窓会ですね。

ブレナン神父
ダグマー


そして、永遠の憧れビル・ナイ様も
ローレンス枢機卿役として出ていました。

ローレンス枢機卿(ビル・ナイ)

御歳74歳、威厳ある演技力で恐怖を倍増してくださいました。もうずっと大好き、ずっと応援します。


そんなわけで、元々オーメン大好きなのと、
今作が面白過ぎてかなり膨大で情報量が多い記事になってしまいました。
音響も、絶対に映画館で観られた方が恐怖度増して楽しいし面白いです。既に2回目見終えたので、私はあと何回か観に行きます。

気になっている方は是非。

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