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電話の音声だけで女性を救えるか?鳥肌級の大どんでん返し!映画「THE GUILTY/ギルティ」感想・レビュー

今回は2019年公開のデンマークの映画
「THE GUILTY/ギルティ」の感想・レビューをお届けします。

THE GUILTY/ギルティ(2019)

・第34回サンダンス映画祭:観客賞受賞
・アメリカの映画レビューサイト『ロッテントマト』100%の満足度評価獲得

緊急通報司令室に届いたとある女性からの通報で、電話越しの音と声を頼りに救出に挑むクライムサスペンスです。

〈あらすじ〉
舞台はデンマークの緊急通報司令室。
とある事件をきっかけに現場業務から外れた主人公・アスガー(ヤコブ・セーダーグレン)は、司令室のオペレーターとしてパトカーや救急車の手配等、小さな事件を担当していた。
オペレーター業務最終日、とある女性から男に誘拐されているとの通報が届く。アスガーは女性を助けるため、電話からの声と周りから聞こえてくる音を頼りに自身の業務の領域を超えた必死の対応を続けていくが、彼女との対話を続けるうちに思いもよらぬ真実を知ることになる…

久々にのめり込む感覚を覚えた、最高に刺激的な作品でした!!
ポイントをいくつかまとめてご紹介しますね。

①ワンシチュエーションとは思えない高クオリティな構成

あらすじ記載の通り、この映画は緊急通報司令室にいる主人公・アスガーが電話の応対のみで誘拐されている女性を救う物語です。
従来のクライム作品であれば、応対中の主人公側の視点と誘拐されている女性側の視点、また司令室から指示を受けた現場の警察官の視点等、様々なシチュエーションの映像が組み込まれ映画が構成されますが、この作品はなんと緊急通報司令室の主人公を映すワンシチュエーションのみ。

通報者の女性がどんな姿なのか。
現場の状況はどうなっているのか。
映像は一切出てきません。

映されるのは司令室の状況と、通話応対するアスガーの姿だけ。

つまり、私たち観客は司令室で通報を受けている主人公と全く同じ視点に立たされるのです。

主人公、また私たち観客が得られる情報は、電話越しに行う女性との内容と、その先に聞こえる居場所の手掛かりとなる音たち。そして、対話中に確認できる発信場所の位置情報のみ。

通報者の状況、誘拐犯との関係、どこへ向かっているのか。限られた時間の中で救出の手掛かりとなる情報を聞き出さなければいけない緊迫感にどんどん引き込まれていきます。

そして、カメラは主人公を基本的に映しているのですが、その多くが限界まで寄った顔のアップ。

主演ヤコブ・セーダーグレン

様々なアングルから応対中のアスガーの表情を追っていきます。起承転結が経て、アスガーの表情がどのように変わっていくかを楽しめるのも、この映画の見どころの一つ。

ただ、俳優の技量が伴ければ、かなりチープな作品になってしまう構成なので、監督は主演のヤコブ・セーダーグレンに懸けたのではないでしょうか。

かなり挑戦的ですが、俳優の演技力も含め、全ての要素が上手く懸け合わさって最高のケミカルXが完成された映画だと思います。

②どんでん返し好き必見!固定概念を覆される展開

観ていくうちに目が離せなくなる没入感と緊迫感はやはり、この映画のストーリーの面白さが大きく関わっていると思います。

緊急通報司令室で電話から聞こえる音と声だけで通報者の女性を救うというシンプルながらもキャッチーであり、救う為の方法や過程を知りたくなる設定。
しかし、ただ救うだけの物語では、前述の通りワンシチュエーション・音楽なしの単調な展開であれば観客に飽きが来てしまいそうなところですが……

この映画の面白いところは、単なる女性の救出劇ではなく、聴覚だけで行うコミュニケーションの難しさを描いている部分なのです。

DynamiteBrothersSyndicate より

人間の五感による知覚の割合は、視覚が83%を占めています。つまり、私たち人間は大半の情報を目で見て得ているということ。
それに対して、聴覚は11%。その他の嗅覚・触覚・味覚と比べれば多いかもしれませんが、視覚で得られる情報量とは歴然の差。

つまり、主人公・及び通報司令室にいるオペレーターたちは通報で得られる情報のたった11%から、限られた時間で的確な指示を出さなければいけないということ。

発信者の追跡情報等では、現在地を視覚で確認することはできますが、そもそもどんな状況下にいるかは見ることが出来ないですし、通報者からの供述を聞いて頭の中で想定をするしかありません。
更に詳しい位置を知るためには、手掛かりとなる質問を咄嗟に考えて聞き出すしかないのです。

ネタバレはあえて避けますが、
主人公も通報者の女性と対話をしていく上で、頭をフル回転させてあれよこれよと各部署へ手を打ち、担当業務の領域を超えた対応でなんとか救出を図ろうと尽力していきますが……思いもよらぬ展開、いや、見落としていた真実に気付いていくんですね。

その見落としていた真実によって、視覚が使えない人間は無意識に通話先の相手の人物像や置かれている展開が自分の求めるものへ近づけてしまうという恐ろしさにも気付かされます。

そして、それは主人公だけではなく、私たち観客も同じ。通報者の女性だけでなく、指令先の警察官や誘拐犯まで、声を聞きながら無意識に頭の中で思い描いているのです。
自分の固定概念を客観視する瞬間があったり、観る人全員思い浮かべている顔が違うというのも、この作品の面白いところ。

①で記載した通り、今作は最低限のシンプルな構成ですが、ストーリーは見進めていくごとに私たちの想像を掻き立て、ラスト30分のどんでん返しによって更に深みを帯びていく、なんとも良く出来た映画だと感動しました。

③"音楽"が一切流れないことによる効果

この作品、劇中に"音楽"が存在しません。
いわゆる「映画音楽」はエンドロールまで一切流れないのです。

大半の映画には、ストーリーへ抑揚・ドラマ的効果を強調する為、様々なバリエーションの音楽が使用されますが、この映画に出てくるのは私たちが現実で聞くものと同じ"音"だけ。
通報のコール音やパソコンのタイピング音、電話口からの声やその先に聞こえる外の音……

音楽がないことによって、私たちが過ごす現実と環境をリンクさせ、一つ一つの"音"に緊迫感を持たせています。

音楽がない映画は今までにもありますが、
名作どころでいうとヒッチコックの「鳥」もいわゆる映画音楽がありませんでした。

ヒッチコック 監督作「鳥」(1963)

鳥の鳴き声や羽音、屋根を伝う鳥たちの足音等、鳥が迫ってくる恐怖を彼らが持つ"音"でリアルさを強調することで、音楽がなくとも観客の恐怖をより煽ることができた成功例の一つかと思います。

「THE GUILTY/ギルティ」も「鳥」同様に、作られたドラマチック要素(映画音楽)を排除することで、リアルな緊迫感と観客が主人公の状況を追体験できるようになっていました。

期待以上の完成度・最高の満足感

ワンシチュエーションに重ねて、映画音楽もなし。
映画の中に取り入れられる様々な効果たちをあえて制限したシンプルすぎる構成の今作。
観ていくうちに飽きを感じてしまいそうに思えますが、心配無用。のめり込み不可避、最高の満足度を得られる映画でした。

そして、この映画に出てくる警察内の緊急通報司令室のオペレーターは、一刻を争う状況の中で限られた情報から自身の頭をフル回転させ、的確に指示をしなければいけない責任重大な仕事なのだと改めて感じました。

そう考えると、警察に限らず、全てのオペレーター業務ってめちゃくちゃ頭を使わなければいけないし、暗闇の中でパズルを完成させろ!ぐらいの無理難題な要求に対して正確性が求められる過重労働ですよね。。。技量が試される侮るなかれなお仕事。もっと全体賃金相場が上がってもいいと思います。

また、この作品、2021年にはハリウッドリメイク版が制作され、ジェイク・ギレンホール主演でNetflixにて公開されています。

ハリウッド版はまたアメリカライクな作りになっていて、それはそれで面白かったのでNetflix契約者の方はオリジナルと併せて見てみてください。

オリジナルとリメイク版に触れているレビュー動画もアップしておりますので、良ければこちらから↓

というわけで、今回ご紹介した「THE GUILTY/ギルティ」気になった方は是非、ご覧ください。

ではでは




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