『勝利の女神』
この瞬間が一番ドキドキする。
なんて言ったって自分の努力が証明される時だから。
「赤井裕翔ー」
先生が名前を呼び出す。
ああ、始まった。
もう少し、もう少しでその時が回ってくる。
…次だ。
「中田紗羽ー」
呼ばれた。呼ばれてしまった。
さあ、取りに行くんだ。
そして受け入れるんだ、現実を。
そんなことをやって自分の点数を知ったあとは、誰と競うかを決める。
やっぱり負けたくないから、自分より点数の低そうなヤツを狙うか。
それとも、明らかに高そうなヤツを狙って、次のテストまで教えてもらう約束を取り付けるか。
迷う。
どっちも捨てがたい。
「せーの!」
須和泰洋95点、橋部晃太郎81点。
そして中田紗羽80点。
「っしゃー!勝ったー!あぶねー!」
「1点差でしょ!」
「いやいや、これは勝負ですから!」
そう言ってはしゃぐ晃太郎を見て微笑む泰洋。
なんなんだこの男は。
なぜ毎回9割を超える点数を取り、こんなに爽やかな笑顔を振りまくのだ。
いや、いや。そんなことはどうでもいい。
それより、1点差。
1点。
私の1点はどこに消えたのだ。
このままじゃ負けじゃないか。
探さねば。
「紗羽ー!なにしてんの!ハンバーガー食べに行くぞー」
…くっ…ハンバーガー…
よりによって、なぜハンバーガーなんだ。
こんなときに。
消え去った1点を探すか、ハンバーガーを取るか。
あ、そうか。
ここでこの言葉を発すれば。
「じゃあ、私が奢る」
よし、勝った。
これが私の失くした1点だ。
「なんでだよ。勝ったやつが奢るのが筋だろ。お前はその金で参考書でも買っとけー」
晃太郎…晃太郎…!
何も言い返せない…負けか?ここで負けなのか?
「はい、買ってきたよー!二人が何か楽しそうに喋ってたから邪魔したら悪いなと思って。これでいいんだよね?いつものやつ」
…!
爽やか…爽やか須和泰洋。
勝利はやっぱり君か。
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