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CATツール(翻訳支援ツール)を利用しても残る、翻訳者にとって一番大事なこと

 今回は、AI翻訳や機械翻訳と並んで、いまや翻訳とセットと言っても過言ではないCATツールについて、長年の翻訳経験から考える翻訳者にとって大事なことにフォーカスしてみます。


📚CATツールとは何か

 翻訳者が活用しているツールといえば、CAT(Computer Assisted Translation)ツールです。「翻訳支援ツール」ともいいます。AI翻訳や機械翻訳の機能が組み込まれているものもありますが、CATツールは、翻訳自体を行うものではなく、翻訳作業をサポートしてくれるもので、さまざまなものがあります。

📚CATツールを使用するメリットとデメリット

 

①メリット

・過去訳を参照しやすい。
・複数人で統一のとれた翻訳をしやすい。
・用語集に基づいた翻訳が効率的にできる。
・訳抜けを防止し、数字などの誤記を回避できる。
・翻訳資産を蓄積できる。

②デメリット

・PCの動作が重くなり、翻訳作業に支障がでる。
・バグが度々生じ、翻訳作業が妨げられる。
・CATツールの表記形式によっては全体を俯瞰しづらく、適切な訳出をするのが難しい。
・過去訳に拘るあまり、最新の叡智を翻訳に生かしづらい。
・文書形式の変換に余計な手間と時間がかかる。


📚CATツールのデメリット解消方法

 CATツールを使用するメリットは確かにあるので、デメリットの方を少しでも解消できたらよいですよね。

 まず、PCの動作が重くなるという点ですが、できるだけファイルを短くし、必要な部分だけ取り出してCATツールを使用するのがよいでしょう。そして、できるだけ軽いCATツールを選ぶというのもとても重要です。そのためにもお試し使用をさせてもらえる会社が好ましいです。

 バグについては、言語特有のバグもあるので、日本語使用であれば、日本に拠点がある、あるいは日本語に対応するカスタマーサービスがある会社がよいかと思います。

 そして、CATツールを使用して訳出した後、最終的には納品形式に戻して、全体を読み通すことで、文章全体の流れを把握し、全体として齟齬のない滑らかな訳出ができるでしょう。

 また、過去訳に拘るというのは、新しくするのが面倒という気持ちがあるからではないかと推察します。ここは、翻訳の最終目的をよく考えると、自ずと最善策が浮かび上がるでしょう。誤訳を修正するのは当然として、誤訳とまでいかない場合は、クライアントの目的と修正のコストの最適なバランスを考えることが大事です。

 文書形式の変換・・・実はこれは本当に悩ましい問題です。翻訳会社から依頼された、あるいは社内に文書専門の部署があるのであれば、そこに依頼するのもひとつです。そうでなければ、受注前に、その手間を含めて見積もりをするか、見積もり前にクライアントの方に文書変換を依頼できないか確認するのがよいでしょう。


📚CATツールの最適な使用方法

 最終的に、デメリットも解消したうえでCATツールのメリットを享受したいものですよね。

 端的にいえば、上記の解消方法を実行するコストとメリットの最適なバランスを編み出せれば最高です。

 完全にひとりで作業をするのであれば、ひとつひとつのデメリット解消に関する意思決定もそれほど複雑ではないかもしれません。

 しかしながら、翻訳会社と翻訳者、あるいは一グループに所属する複数の翻訳者など、複数人が関わる場合、何を大事にするか、そのために面倒な作業をどこまで受け入れるか、受け入れるべきとするか等々、合意に達するのが実は本当に大変です。そして、運用方法を一旦決めたとしても、それに従うか否かにまでばらつきが出てきてしまいます。

 そこで、ある程度のばらつきを許容しつつ、ざっくりと管理できる緩い体制とするのも、実現可能な最適な使用方法になるのではないでしょうか。


📚CATツールを使用しても残る翻訳者にとって一番大事なこと

 結局、CATツールを使用した場合であっても、「高品質の翻訳のアウトプット」が目的であるということには変わりありません。

 CATツールの最適な使用方法も、この目的に集約されます。

 CATツールで、形式面や翻訳抜け・余計な加筆の排除など、最低限の正確性を担保したうえで、内容の正確な把握とその適切な訳出という側面での翻訳技術を磨いていくのが重要であることは、いつの時代も変わらないでしょう。


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