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9. できるなら、都庁北展望台で。




私は尊と一緒にいた頃、よく占いに行っていた。



人は本当の意味で何かに迷っているとき、占いには行かない。

たぶん、そういう風にできている。


どうした方がいいか分かっていても、それでも後押しして欲しいときに行くのだ。



尊と一緒にいて幸せになるはずないのに、それでも後押しして欲しくて行くのだ。



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私たちはよく、都庁北展望台で待ち合わせをした。

彼に会うために待ち合わせたのではなく、展望台に来たら偶然彼に出くわした、と思いたいからだった。

それは私にとって重要なことだった。


尊と会うのは、早くても22時以降がほとんどだった。

彼の時間に合わせて、夜も深まる歌舞伎町へ行く時の私は、職場や学校から切り離されて自由な別人格だったけれど、惨めで、馬鹿馬鹿しくて、正しくないと感じた、心底。


尊のために新宿へ向かう自分が、嫌だった。


だから。

だから、できるだけ展望台で待ち合わせをした。

心の逃げ道をつくるために。



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新宿を出て六本木に向かう車中、尊が口を開く。


『気軽な初心者向けのパーティーがあるから、まずはそれに来てみない?』


行きたくなかったけど、私が行かなかったら尊は他の女を連れて行くだけだろう。その考えが頭から離れなくて、口をついて出る。


「私が行かなかったら、誰と行くの」


『葵がまだ無理っていうんだったら、俺も行かないよ。他に会ってる人、いないもん。』


嘘。

私はこの時はっきりとした憤りを感じたのに、やっぱり何ともないフリがしたくて、窓の外を眺めたまま黙り込んだ。



『昔からの顔馴染みばっかりだし、皆優しいから、行ったら絶対楽しいよ』

「何日?」



9月26日、私は皆と出会う。


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