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18. 芸術性を失った愛

17.蛇男

尊(ハル/海)|女風で出会った私のパートナー。
シンジ|乱交パーティーの主催者。作曲家。
ツユリ|全身タトゥー、スプリットタンの蛇男。尊の知り合い。



昔から緊縛ショーや見せ物小屋に関わってもいたから、こういう雰囲気は好きだった。緊縛は美しいし、ツユリも美しい。

二人とも、かなり酒を飲んでいたと思う。


尊にもっと私を見て欲しくて、私とツユリはどんどんエスカレートしていった。長く伸ばした髪が、汗ばんだ肌にぴったりと纏わりつく。



縄がいくら肉体に食い込んでも、目の前で他の女と繋がる尊を見る方が辛くて、辛くて、とにかく、見たくないのに見てしまう。もっと締め上げて、思考を停止させて欲しかった。


ツユリが縄を解いて、赤く散った痕に蛇の舌を這わせる。

うっとりと見つめて「縄痕は芸術だね。火照って熱い」と言った。


芸術。


私の人生に、ずっと存在しているもの。

美術を生業にする私は、毎日芸術のことを考えている。



好きなら好きでいいし、嫌いなら嫌いでいい。

綺麗な芸術も、厄介な芸術もある。

でも、他の人に強要しないで。

した瞬間、それは美しさを失ってしまう。



永遠に。これは本当だ。


私はずっと考えていた。

尊が私に与える性愛は、全くもって芸術的ではないと。





帰り、早朝の地下鉄。


twitter を開くと、「海」が更新していた。
尊は、女風アカウントを持っていて、時たま、日々のことを載せている。


「先日、●●展に行ってきました!」

私に出会った頃から、突然、美術展のことを呟くようになった。感想と共に、チラシの写真が載っている。私は少しだけ優越感に浸る。


リプ欄には、海のお客さんたち。

文面から、定期的に通っている様子がわかる。


「海」は、とにかく紳士的で優しく、甘いエスコートが売りで、お客さんがお姫様気分を味わえると人気だった。


この人たちは、海のことどれだけ知っているだろう。


プライベートの「海」は異常性癖を持っていて、幼稚で、時に怖い。今思えば、かなりネジが外れていて、後先を考えない人だった。


それでも尊から離れなかった理由は、たぶん、可哀想だという気持ちと、好奇心だった。


世間一般的な「幸せ」には届かないと分かってはたけど、ここまで来たら、堕ち切ってしまいたかった。



車両が地上に出る。


車窓から眩しい朝日が差し込んで、肌に残った縄の痕がチリチリと痛んだ。



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