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最後から2番目の唄―2022年2月9日

そのとき私は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』という映画を思い出した。

あまりに鬱々とした理不尽な展開で有名な作品だが、私はビョーク演じる主人公のある言葉が印象に残っている。

彼女はとてもミュージカルが好きだ。工場で働いているときも鉄橋の上を歩いているときも、つい"ミュージカルを演じる自分"を夢想してしまうほど。だがミュージカルを観るとき、なぜか彼女は最後まで観ずに席を立ってしまう。その理由について彼女はこう語る。

「最後から2番目の唄が始まると映画館を出るの。そうすれば永遠に映画は終わらない

"最後"を切り落とすことで作品を自分の中に永久に生かし続ける。まるで片恋相手を殺害して「永遠の命」を与えるかの、歪んだ愛の形のように思えるが、今の私にはその気持ちがよく分かる。

先日、『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト オーケストラコンサート』の夜の部に参加した。開催が告知された数ヶ月前から心待ちにしていて、ツラい仕事も退屈な生活もこの日があることで乗り越えられた、それぐらい楽しみなイベントだった。

もちろん結果として期待を遥かに上回る興奮と感動のうちにコンサートは幕を下ろしたわけだが、それからというもの、何日が過ぎても、むしろ現在に至るまで、言いしれぬ喪失感から抜け出せずにいる自分に気付いた。

煌めくライト、荘厳な旋律、美しく力強い歌声。その残響が体中に鳴り渡り、それがかえってポッカリあいた心の空洞を強調して、虚無感を覚えさせる。まるで誰か大切な人を亡くしたような、そんな感覚を。

そう気付いたとき――そのときに私はビョークのセリフを思い出したのだ。

もし私がラストの「星のダイアローグ」が流れる前に席を立っていたら。
笑顔で手を振る小山百代を見ずに帰りの京葉線に乗っていたら。
『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト オーケストラコンサート』は私の中で永遠に上演が続けられ、こんな寂寞感に押し潰されそうにはならなかったかもしれない。

もちろん実行するにはとてつもない勇気がいるし、いずれBlu-rayで発売されるからあまり意味のない行為なのだが、それでもビョークの行動は理にかなっていると本気で思えた数日間だった。

なんてことを思いながらウーバーイーツでマクドナルドを頼んだら、ものの20分で食べ終わってしまった。
もし私が最後のテリヤキバーガーを食べずに残しておけば永遠に(以下略)

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