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Jamael Dean インタビュー & ライナーノーツ

text by 原 雅明

 7月22日にringsからジャメル・ディーンの『Black Space Tapes / Oblivion』をリリースしました。CDアルバムには、この気鋭のピアニスト、ジャメル・ディーンへのインタビューとライナーノーツが掲載されていますが、それらを有料記事としてnoteで公開します。ダウンロードやサブスクリプション・サービスなどで彼の音楽に興味を持った方に対しての記事となります(なお、CDはMQACDのハイレゾ対応の仕様でサブスクなどとは違った音質の楽しみ方ができます。もし、CDでの音源を楽しみたいという方は以下の記事購入せずにCDをお求めになることをお勧めします)。
 インタビューは、LAにて電話を通じておこないました。文字数にして12,000字以上のボリュームがあります。祖父にあたるドラマー、ドナルド・ディーンの話を皮切りに、ジャメル・ディーンを通してLAのジャズの歴史を紐解くような読み応えのあるインタビューになっています。これに、僕のライナーノーツが続いてます。それぞれ、文中には関連音源や映像へのリンクも出来るだけ入れてありますので、それらと共に読んでみてください。(原 雅明)

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ジャメル・ディーン・インタビュー
Interview by 原 雅明 & バルーチャ・ハシム

——出身と音楽を演奏し始めたきっかけは?
僕の音楽的な出身地はラマート・パークだよ。僕の祖父のドナルド・ディーン、ビリー・ヒギンズ、ホレス・タプスコット、パン・アフリカン・ピープルズ・アーケストラ(PAPA)など、先人のミュージシャンたちがそこで音楽的な歴史を築いてきた。生まれたのはカリフォルニア州ベーカーズフィールドで、LAから北に2時間ほど離れた町だ。LAに引っ越したのは高校生からだけど、サウスLAのホーソーントいうエリアに住んでた。大学はニューヨークのニュースクールに入学したから、ブルックリンに住んでたんだけど、今はコロナのせいでLAのガーデナに戻ってきたんだ。

——祖父のドナルドはジャズ・ドラマーで、PAPAのメンバーですね。どんな影響を受けましたか?
様々なレヴェルで影響を受けたよ。最初に僕も音楽を演奏するようになったとき、祖父とバンド仲間とのやりとりにインスパイアされた。祖父が仲間と演奏する前に楽屋で冗談を言い合って、ステージ上で演奏するときは音楽を通して冗談を飛ばして笑っていた。祖父や仲間がまるで秘密の言語を知っているようで、すごく楽しそうに見えたのを覚えてる。祖父が、この音楽という言語を学ぶようにプッシュしてくれた。まだ12歳のときに、ジョン・コルトレーンの”Giant Steps”のような難しい曲を習わせられた。あまりにも難しくてフラストレーションを感じたんだけど、そのフラストレーションをどうやって切り抜けるかを祖父は教えてくれた。祖父がミュージシャンたち仲間と仲良くしているところも尊敬していた。それが演奏に反映されるからね。

——PAPAのライヴに行き、演奏にも参加したのですか?
12歳の時に初めてPAPAのライヴに連れて行かれて、祖父と父も一緒にいたんだ。祖父がマイケル・セッション(PAPAのホーン奏者)に「うちの孫がピアノを演奏してるんだ」って言ったら、マイケルは「これは君のバンドなんだから、一緒に演奏しなさい」と言ったんだ。僕が困惑していたら、マイケルは「これはみんなのグループなのであって、すべて人々のための音楽なんだ。私たちの音楽ではない。私たちの演奏にはもっと偉大な目的がある。私がいなくなったら、このバンドは君とマケラが受け継ぐんだから、演奏しなさい」と言われた。そのときに、初めてマイケルの息子のマケラがドラムを叩く姿を見たんだ。マケラはトップハットを被っていて面白い人だなと思って、仲良くなった。そのときに、カマシ・ワシントンも一緒に演奏していたんだ。彼らと演奏したときに感じた高揚感が忘れられなくて、まるで高次元の世界と繋がっている感覚になった。特別な体験だったんだ。

——今もまだマケラやカマシと演奏しているわけですね。
カマシとはしばらく会ってないけど、一緒にツアーをしていたし、マケラは僕のバンドのメンバーだよ。しばらくロックダウンだったから一緒にライヴはできなかったけど、ずっと彼らと演奏しているよ。

——ピアノを演奏するようになったきっかけは?
いろいろな理由があるんだけど、祖父がドラマーだったんで、一緒に演奏するには別の楽器を選ばないといけなかった。それでも祖父は少しドラムを教えてくれた。学校ではバイオリンを演奏していたから、それでト音記号の楽譜の読み方を覚えた。父親はベーシストだから、ヘ音記号の楽譜の読み方を教えてもらった。8歳のときにビデオゲームにはまって、両親がゲームを時間の無駄だと思っていたから、ゲームをやめさせられたんだ。その代りに、クリスマスにピアノのプレゼントが欲しいとねだったら買ってくれたんだ。最初のうちはピアノでゲーム音楽を耳コピーして演奏していたよ(笑)。父親の従兄弟に連れて行かれて、そこでさらに楽譜の読み方やテクニックを教わった。悪い癖が付かないように基礎を学んだんだ。そのあとは、カリフォルニア州立大学ベーカーズフィールド校の博士のところに通って、しばらくレッスンを受けていた。彼は、サンダーキャットのバンド・メンバーであるデニス・ハムの先生でもある。ビル・カンリフ、エリック・リードなど様々な先生に師事をして、大学ではレジー・ワークマン、アンドリュー・シリルなどからも学んでいる。人生のすべてが先生だよ(笑)。

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