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おれたちの小説はこれからだ!

『プロだけが知っている小説の書き方』 
森沢明夫
文字数:約1,500文字
ネタバレ:一部あり


 タイトルで「俺たたエンド」を連想できたあなたなら、きっと本書を活かすことができるでしょう。

 いちおう「俺たたエンド」を解説すると、物語の終わりで主人公や仲間たちが新たな冒険に出たり、新たな敵が現れたりしながら語られない、なんだかモヤる結末のことです。

 完全には結末を書かず、その後を読者に想像させる手法については本書でも触れられているのですが、残念ながら打ち切りなどの際に使われることもあるそうで。


 本書は小説投稿サイトの企画が元になっており、質問と回答の一問一答で書かれているので分かりやすく、内容も実践的なものが多いです。

 たとえば物語を面白くする手法として『W理論』なるものを提唱し、主人公の幸福度を上げ下げするよう指南しています。

 思い返してみれば、始めから幸福なままの主人公というか物語は面白みに欠けます。もちろん描き方にもよりますが、基本の theory としては正しいです。

 描写を広い視点から狭くすることでイメージを明確に、対象に接している人の行動から描く方法など、ダメな例と凡例を並べて解説されています。

 個人的に良かったのは「1人称と3人称の違い」でして、私自身だと2つを混ぜて使っているものの、意識しているかと言えば微妙なところでした。


 小説技法から離れたところだと、長時間にわたって書き続けるために筋トレを勧めたり、作品に合った曲を聴いて書く準備にしたりと、今まで読んだ指南本よりも役立つ情報が多いです。

 とくに横書きと縦書きにより、文章から受ける印象が異なるという話は、なんとなく感じていても提示されると「確かに!」と納得しました。

 最後に添えられたコラム「『無名』だからこそ手抜きをしない」は、できれば小説家を目指している方すべてに読んで欲しいので、やや長いですが引用します。

 出版社というのは、あくまで「営利追及団体」です。ということは、利益を出し続けなければいけない。たとえ編集者が飲み友達だったとしても、その人は会社に損をさせてはいけないんです。

 リスクを背負ってでも、この作品は「自分が手がけて」世に出したい!
 この書き手は、この作品は、将来、化けて元が取れる可能性が充分にある!

 かなり強く、そう思っていなければ、決して出版することはないでしょう。
 ということは、です。もしも無名の小説を出版してもらいたいなら、「ふつうに面白い」作品ではなく、「驚くほど面白い」作品を書かなくてはいけないわけです。大御所がふつうに書くレベルではダメで、編集者に「リスクを負う覚悟」を背負わせるくらい優れていなければならないんです。

247~248頁

 今まで「小説家になりたい」という方をそれなりに見てきました。ここnoteにおいても同じで、聞くところによると小説講座が人気になったりしているそうで。

 夢を持つことは素晴らしいです。そして私は夢を叶えた方も知っています。

 ですが「小説家になる」というのはスタートであり、ゴールではありません。

 蹴ったボールが外れてしまったり、ゴールしても試合で負けてしまった方に待っているのは、良くて2軍や3軍への移籍、悪ければ戦力外通告です。

 それでも書き続けたい、世に作品を出したいという執念あるいは狂気を持つ者だけが、きっと大御所と呼ばれる作家になるのでしょうね。

 本書を読んで「自分にはムリだ」と諦めるもよし、「それでもやる」と奮起するのも自由です。

 あなたの目の前にある白紙には、まだ何も書かれていないのですから。



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