この子は人魚姫……ではない
『ナナのアクアリウム』 中西茉海
読了レビューです。
文字数:約1,000文字
ネタバレ:一部あり
・あらすじ
とある少年は幼い頃、海で溺れているのを人型の生物に助けられる。
やがて少年は研究者となり、ふたたび人型の生物に出会う。
「ナナ」と名付けた生物と研究者、堀池は親交を深めていくが──。
・レビュー
物語としてはシンプルで、見た目は人魚っぽい貝類「ヒトガタジョオウガイ」と人間とのやり取りを描いている。
貝類なので砂にもぐるけれど、水辺でもわりと普通に活動しているのは謎だ。
海洋汚染による突然変異体とか、人類と覇権を争う対抗馬だとかのシリアスな可能性は水に流し、純粋に堀池とナナとの交流に絞った点が良い。
惜しむらくは終着点が予想の中であり、そのあたりは現実的な落としどころを探った結果なのかもしれない。
希望としては人型の生物が出るならば、人間の堀池がナナの側に傾いても良かったのではと思う。
もちろん最後まで人間とその他、という決して同じでない存在が、それでも交流を持ち続けようとする点が良いとは言える。
ナナは人類語を解するとはいえ、海に生きる野生動物だそうな。
第7話「もぐる」で描かれる生態の一端は、人間からすると直視できないものだからこそ、ナナの手で描かれるラクガキのような光景の恐怖が増す。
でもそれは人間が「異常」としているだけで、ナナたちからすれば普通なのだと思う。
ページを戻れば第5話「それって俺のせい?」にて、鯨について話す部分が布石になっていたとするのは考えすぎだろうか。
よくよく考えれば人間とナナたちの生態は鏡映しであり、どちらが優れているわけでもないし、善悪や美醜を持ちだすのは人間の悪い癖だ。
そんな人間も太古の時代には海に住んでいたのだけど。
始めは猛獣として認識していたのが、すこしずつ懐いてくると獣であることを忘れてしまう。
現実と同じことが本作でも起こり、勝手に期待して失望する悲しみが繰り返される。
ただし本作には救いが用意されており、堀池とナナの関係は現実にも起こり得る。
あえて「2人」とする彼らの普通ではない選択に、もしかしたら自分を重ねる人がいるかもしれない。
読み終えてから読み返すことで、自分の中にある人間と呼ばれる部分について考えるのも面白いだろう。
それはそうと、表紙だけでなく全編カラーで読んでみたい!
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