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ゆるく、ときどき妄想のちエンタメ

『いのちの車窓から』 星野源
読了レビューです。

文字数:約1,200文字
ネタバレ:一部あり


 星野源という人物について、「よくわからない人」だと思っている。

 ミュージシャンであり俳優、ラジオにも出演して本書のようなエッセイも書く。

 似たようにマルチな活動をする人は多いし、加藤シゲアキのようにアイドル、かつ作家という振れ幅のすごい人もいる。

 星野源という人物についての謎を解くヒントになればと思い、たまたま書棚に見つけた本書を手に取った。


 雑誌『ダ・ヴィンチ』の連載が元になっているためか、ざっくり2,500字くらいの分量で1つのテーマがまとめられ、とても読みやすい。

 〇〇は××だから△△であり、だから私は~といった、主張が強めで硬めな印象はなく、さらりと流れていく店内BGMのようだ。

 仕事にまつわる話も多いけれど、自らについて冷静に俯瞰しているのが競艇場を訪ねてみた話、『多摩川サンセット』から分かる。

 結局舟券は買わなかった。

 金を賭けるギャンブルは苦手だ。普段やっている仕事で十分なスリルがある。安定しない代わりに当たれば大きい。

 時々、好きなことをやりたくて仕事をしているのか、賭けに勝つ為に仕事をしているのかわからなくなる。本当は両方とも大事なことなのだが、前者を常に忘れないようにしておかないといけない。

 闇雲に勝つことに執着し、気がつけば仕事がなくなり消えていった先輩を何人も見てきた。人生を賭けた仕事というのは、中毒的要素もとても強い。

『多摩川サンセット』 17~18頁
(原文に改行を加えた)

 カードの表裏と同じではないにせよ、エンタメにまつわる仕事はギャンブルと近しく、コロナ禍で様々なコンサートやライブが休演になった。

 そんな中で発表した「うちで踊ろう」は、多くの人に元気を与えてくれた。

 ただ、当時の故・安倍首相までも関連動画を投稿するとは、いったいだれが予想できただろうか。


 本書に収録されているのは、くも膜下出血から快復した後に書かれたもので、療養中に正体を隠してTwitterを始めてみるあたり、いたって普通の人間であると認識する。

 ゲームが好きで12時間プレイした話に驚き、ホテルの一室から見たとする光景が実は妄想だったりと、思わず「なんじゃそりゃ!」と叫んでしまった。

 高校を長期で休んだり、自分の好きなラジオ番組について話せなかった過去など、ほどよく暗い話の後に来るのはドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で共演し、その後に本当のパートナーとなった新垣結衣の話だ。

 さらに後の話は雑誌に掲載されたのみらしく、次に刊行されるであろう書籍に収められると期待する。


 思いがけず手に取った本書から、星野源という人物について好意的な姿勢を持つようになった。

 冗談ではなく死にかけた人間は人生観が変わるというけれど、これから1人のサバイバーが何をしていくのか、ゆるく眺めていきたくなった。

(敬称略)



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