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けれども人生は早送りできない

【文字数:約1,200文字】

 先日にラジオを聴いていると、『映画を早送りで観る人たち』の著者、稲田豊史さんをゲストにした特集があった。

 少し前から映像を倍速視聴する人がいるという話は見聞きしており、同作にも興味があったので良いタイミングだった。

 特集によれば特に20代が早送りで観る率が高いそうで、10代から続く友だちグループと話題を合わせるため、とりあえず内容をさらうために早送りをするのだそうな。

 そして「タイパ」という言葉を始めて知った。

 これはタイ風のパーティーではなくタイムパフォーマンスの略で、コストパフォーマンスを縮めたコスパの類義語だ。

 私自身も内容が分かる範囲で倍速視聴しているし、サブスクリプション、つまり定額制の配信サービスならば、視聴方法は人それぞれ自由だとする意見に同意する。

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 特集の中盤では「快適主義」の話を聴き、なんだかなぁという残念な気分になった。

 ストレスのない展開が好まれるのは出版社なども気にするし、そのために心情をセリフで語ることが推奨されるのは、形を変えた自主規制ではなかろうか。

 そして特集の終盤にて、劇作家で小説家の本谷 有希子さんとのやり取りを引用して、「共感オバケにつかまらないようにしている」という話が出た。

 「分かります、それ」と言われるのが嫌だからと続くのだけれども、現在の風潮は分かりやすさを求めているらしく。

 観客あっての商業作品ではあるけれど、分かりやすさを追求したものばかりに触れていると、そうでないものへの耐性も育たない気がする。

 たしかに疲れているとき、頭や精神に負荷のかかるものは遠慮したい。

 だからこそ気合を入れて読書や視聴する機会を作っているし、読書レビューを書くのも取り組みの一環だ。

 とはいえ、今の20代がお金や時間もなく疲れているとのことで、加えて無駄を良しとしない教育を受けてきたのなら、映画を早送りするのも普通なのかもしれない。

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 特集の中で、「今は自分の上位互換が全部見えてしまう地獄だ」という話も出た。

 自分より詳しい人や深い考察をする人がいるし、だったら早く正解が欲しい、ネタバレで内容を先に知ろうとする、と繋がっていく。

 それもまたタイパを意識しての行動なのだろうし、私も購入する本のレビューを読んで、買うか止めるかの参考にする場合がある。

 ここ数年は続刊しない作品が増え、あらかじめ注目度を調べておくなどの保険が必要という事情もある。

 ただ、そうやって安心するために買うのではなく、言語化しにくい直感でもって選ぶのも楽しい。

 自分に合わない作品に当たる場合もあるけれど、逆に大当たりを引く場合もあって、使わない直感は鈍るばかりな気がする。

 好き嫌いや偏食をするような人間であっても、味が分からないようになっては楽しめないから、これからも舌もとい直感が衰えないようにしたいと思う。




 下記リンクより件の特集が聴けます。(5/19 14:54 まで)

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