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すべては1本のペンから始まった

【文字数:約1,000文字】

 前回はシャープペンの替え芯を買ったという、だれにとって面白いのか不明な記事を書いた。

 いちおう試し書きはしたけれど変わった感じがなく、あらためて時間を取り使ってみても、やっぱりあんまり変わらない。

 しかし、ひたすらに手を動かしB5の用紙2枚を黒くして、そのときに使っているペンがすべての始まりだと思い出した。


 今はもう廃番になってしまった無印良品のシャープペンを買ったとき、私にとってそれは「高い買い物」だった。

 たしか500円くらいだったと思うし、今となっては2倍を出しても惜しくない人間ながら、それ以前は使いにくさを感じながらも安物を選んでいた。

 たかがシャープペンに、と見下しておきながら指や関節の疲れに気を削がれ、息をするように書くということはできなかった。

 そうした不満を解消できたらどうなるかと期待して、500円くらいなら賽銭みたいなものだと、気楽な心持ちで使い始めた。

 結果として思考する速さに手が追いつくような感覚があり、単純にペンを動かす楽しさだけでなく、頭の中を言語化していく面白さにも目覚めた。

 世界を平和にする方法といった意義深いことは書いてないし、だいたいが過去の記憶を追体験する非創造的な営みに過ぎないけれど、取り組んだときの体調や近況などにより表現が変わっていく。

 万華鏡のように輝くときもあれば、あるいは拾った石に運命を感じるとでもいうべきか、似ているようで同じ文章は1つもない。

 とある悲しい出来事について書いたとしても、その強度や振れ幅が異なれば、手を止めた後に残る感情もまた同様となる。

 それは鉱物の塊を調べる研究者のようで、見方によって路傍の石または貴重な資料、どちらでもない収蔵品へと分類される。

 学芸員が自分だけの博物館、もしくは美術館にいるようなものだろうか。


 そういえば替え芯を買うとき、PentelのシャープペンSMASHの2023限定カラーが出ていると知り、3色あるうちのカーキに惹かれた。他の色はオレンジとネイビー。

 たかが色、されど色なのだ。

 さすがにブラックが現役なので見るだけながら、そうしたものが日々の楽しみとなり、穴の開いた心にも安らぎが訪れる。

 たまに私はペンを縫い針のようにして、その穴を必死に繕っているのではとも考える。

 医者の腕が悪いらしく完全には癒合しなくて、気がつくと開いてしまう繰り返し。

 それはまるで賽の河原で石を積み、鬼の手によらず崩れていくのと似ている。



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