ひろがる世界がむすぶ星座を見上げて
『夜に駆ける YOASOBI小説集』読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,700文字
・あらすじ
アルバム「THE BOOK」に収録されている5つの楽曲の元となった原作小説の短編集です。
文字だけで描かれた小説の世界が、どのような過程を経て楽曲になったのか。
小説を読んで自分なりに思い描いた世界と、楽曲を聴いたときのそれとの違いを楽しむも良し。
あるいは小説の刻むリズムと楽曲のそれとが同じなのか、あるいは異なるのかと確かめるも良し。
ただ1つ言えるのは本作を読んだ後には、あらためて曲が聴きたくなるということです。
・レビュー
ファン向けではあるけれど
本作はYOASOBIの楽曲を愛するファンに向けた、曲の楽譜と近しい存在かもしれません。
もちろん原作小説に音は付いていませんし、白と黒だけで構成されているページと印象的なMVとでは、受ける印象が異なります。
ですが巻末に収録されているYOASOBIの2人へのインタビューにて、楽曲を担当するAyaseさんは次のように語っています。
私自身も同じ考えで、ボーカルを担当するikuraさんの声によって紡がれる曲とMVとは、2つで1つではなく個別の世界を描いているように思います。
単行本と文庫本の違い
私が取り上げているのは2021年9月に刊行された文庫本ですが、そこから時間を巻き戻した1年前、2020年9月に単行本が発刊されました。
まずは単行本として市場に出し、しかる後に手軽な文庫本として再販するのが一般的な流れですが、出版において1年という期間は早い文庫化に思えます。
それは流れていく音楽という媒体を主題にしているためでしょうし、人間の記憶に残り続けるには有効な手段です。
文庫化するにあたって、元から収録されていた『夜に駆ける』『あの空をなぞって』『たぶん』、単行本では制作中だった『アンコール』に加えて、『ハルジオン』の原作小説が追加されています。
アルバム「THE BOOK」に収録された曲の中で、『ハルジオン』は楽曲と歌詞に惹かれていた曲でしたから、小説を読んだ後に曲を聴き直しました。
音楽の長所でもあり短所でもある連続性を活かし、たたみかける歌詞が心の情動を表しているように思えて、文章とは異なる世界を味わうことができました。
曲の成り立ちから考える
日本の雅楽、西洋のクラシックは楽器の演奏のみで構成されていますが、そこに歌詞の付いたものが能および狂言、そしてオペラだと理解しています。
一方で、先にあった物語にリズム、つまり節を付けることで、「語り」から「歌い」に変化した流れもあるそうで。
曲と歌詞のどちらが先かを語れるほど詳しくないのですが、少なくとも2つが別の系統として育まれつつ、相互に影響しあって今に到るのではないでしょうか。
先ほどと同じ巻末インタビューにて、Ayaseさんは次のように語っています。
現在は映像および動画を観る機会が多い気がしますけれど、情報量が多いのと引き換えに想像の入り込む余地は少ないです。
ムダのない合理的な手段だとは思いつつ、それでも余白や遊びを求めるのが人間なわけで。
音で構成された楽曲を「聴く」のと、文字による小説を「読む」、さらにMVの映像を「観る」のが加わった先には、「演奏する」もしくは「歌詞や曲を創る」があるのかもしれません。
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