眠れないときの「儀式」を持っておく

学生時代の住まいを思い出すとき、脳裏に浮かぶのはいつも冬のキッチン。それも眠れない夜、キッチンの灯りだけをつけて料理をしている様子。

ベッドの中でなんども寝返りを打ち、やがて諦めてふとんから出る。このままじゃねむれない。そう思ったからだ。

冷たい床をひたひた歩いて、そばにあるカーディガンを羽織り、キッチンへ向かう。

鍋にざーっと水と鶏ガラスープのもとを入れ、火にかける。片栗粉を小さめのボウルに入れて、倍量の水を加えてよく混ぜる。沸騰したら塩、こしょう、その日の気分で醤油などを足して、片栗粉を加える。それから同じボウルにたまごを割って溶きほぐし、ふたたび煮だった鍋にゆっくり注ぎ入れて、ふんわり固まるのを待つ。味を見て、もう少し塩胡椒。それに冷凍してある小ねぎをぱらり。

あたたかいスープを飲んだら、落ち着いて眠れるのだった。

もうひとつ、ふわふわで甘ったるいホットミルクも私の眠れない夜の”儀式”だった。

小鍋に牛乳を注ぎ入れ、砂糖もはちみつもたっぷり。とろ火で火を入れて、泡立て器でかき混ぜ、ふわふわの泡をつくる。そしてもう少し煮る。熱く、甘ったるく。ほんとうにたっぷり甘みを入れるので、特に気持ちが弱っている夜につくる特別な飲み物。

最近、眠れないまま明け方になることが増えた。でも特に悩みがあるわけじゃない。

どうしてだろうと考えていたけれど、そういえば私が眠りやすかったのは、あの部屋で暮らしていたときだけだったかもしれない。子どものころだって寝付けないことが多かったのだ。

当時は、真夜中に音を立ててもだれにも迷惑をかけない部屋だったから、自分なりの”儀式”をして、安心して眠りにつくことができた。

じゃあ、今の部屋でもできる、新しい”眠れない夜の儀式”を持てばいい。
気づいてみたら、とてもかんたんなことだった。

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