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ー或る深き青の物語<1>ー(オリジナル小説)


時は中世ヨーロッパ。とある国の、ある州の地方の領主の娘、シルヴィアのお話です。

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爽やかな風が吹き、小鳥たちが気持ちよくさえずる、5月のある日。お屋敷の周りにある初夏の生き生きとした色合いの草原の草たちが、風の吹く方向へざわめいている。

大きく荘厳なお屋敷、二階の右手の一番突き当りの部屋が、シルヴィアの部屋。シルヴィアは、自分の趣味である、物語の作成に没頭していた。

シルヴィアは、周囲から愛称でシルヴィーと呼ばれている。二人の姉がいて、末っ子である。瞳の色は濃緑、髪型は真ん中で分けており、肩甲骨辺りまで伸びるストレート。髪色は薄い黄金色で、光に透けると白銀色にも見える。肌の色は、幼い頃からの趣味がインドア派であるためか、筋金入りの白さで、周囲からはもっと太陽の光に当たるように勧められていた。

シルヴィーは、17歳。馬に乗り、数キロ先にある領内の学園に通って、日々を過ごしている。

物語の自主作成が好きなので、リアリティーを出すため、学園から帰る途中や休日には、街に出て物語に出してみたいと思うような人たちや、店、あらゆる仕事の現場の取材をしていた。

けれど、領主の娘なので、街の住人達はシルヴィアから何か聞かれても、失礼に当たってはいけない、滅多な対応は出来ないと、疎ましがったり敬遠したりしていた。また、領主への後ろめたい隠し事もあるためである。

シルヴィアは、街の住人たちのそんな不穏な空気感には全く気づかず、いつも機嫌良くにこやかに、人当たり好く気さくな態度で、声を掛けて回っていた。


シルヴィーには、アンナという由緒ある大商人の娘の友達がいる。同じ学級で、仲睦まじく過ごしている。

アンナは綺麗なウェーブのかかった、亜麻色の髪をいつも一つに結んだり、お団子にしたりしている。瞳の色は、水色の混ざった明るい茶色、顔立ちは華やかで、男女問わず人気があった。商人の娘という生い立ちが培ったのか、他の学生たちとのやり取りがとても上手で、友達が多い。シルヴィーは、学級の子たちとのやり取りはどちらかというと苦手で、周囲から浮いていた。本を読んだり、物語の内容をどうするか考える方に気が向くので、休み時間は一人の世界に浸って過ごすことが多かった。そんなシルヴィアを心配して、アンナはよく学生達の輪の中に引っ張りこんで、仲を取り持ってくれるのだった。


まだ夜が明けやらぬ、ある日の早朝。領内の外れにある大きな屋敷へ、馬車や大勢の人が息をひそめ、辺りの薄暗さに紛れるように、次々と屋敷内へと姿を消した。

その日、領主の元にも人がやってきた。国境からの使いの者で、どうやら領内に無断で越してきた不審な者たちがいる可能性がある、とシルヴィーの父で領主…クルード・バルマンに、耳打ちして去っていった。訝しげな表情を浮かべ、クルードは、はて、どうしたものか…と呟いた。実は、クルードには思い当たる節があった。


その翌日、シルヴィーはいつものように学園へ向かった。そして普段通り、教師からの朝の挨拶と、お決まりの長話が始まろうとしていたが、この日は様相が違っていた。

「皆さん、ビッグニュースがありますよ。本日からこの学級に、新しい生徒が一人増えます。歓迎してあげてください。」

ぼんやりしていた頭が澄み渡る。学級内がざわめくなか、教師に呼ばれて、扉から色素の薄い金の髪色の青年が、入ってきた。

端正な顔立ちで、すらりとしたスタイル。さぞ出身が高貴なのだろうと想起させられる、品の良さが伝わる物腰。

瞳の色は、晴れの日の海のように、深い青色…。金の髪色と、とてもよく似合っている。

「名前はヨシュア・ヴォークレンです。どうぞよろしく。」

皆、興味津々で彼を見つめていた。若干、女性陣は容姿の美しさに色めきたった風だった。ヨシュアの話しぶりは、静かでクール。そこも、女性が騒ぎ立つ要因かも知れない。シルヴィーはというと、息を呑んで食い入るように、ヨシュアを見入ってしまっていた。

(決めた!私、この人を次の物語の主人公にするわ!!)

シルヴィーの心に、新たに物語を生み出そうとする情熱が突如沸き起こり、胸を熱くさせた。その興奮が、彼女の頬を紅潮させた。

アンナは、ヨシュアにしばし見惚れつつ、彼の今後を冷静に予想していた。きっと、彼は人気者になるに違いない…とくに、女性陣から。

(大変そうだな…)

隣に座っているシルヴィーはどうしてるかな?と、ちらりと目をやると、何やら彼を真剣に見つめている。彼女の何やらただならぬ様相を見て、他の生徒たちとは別の意味が込められている視線だろうなと、ふぅ…と小さくため息をついた。

(この子のこの表情って…。ヨシュア君、前途多難かも…。いや、私も大変かも)

多分、シルヴィーは別の意味で、彼を追い掛け回すだろう。それを、止めてあげるのが、しばらく私の仕事になりそうね…と、アンナは一人、苦笑したのだった。

(続く)

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