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本当ごめんなさい、時給が高かったからってだけなんです。

例えやりたいことが決まってなくても、勝手に道が開いてくれることもある。


#この仕事を選んだわけ

役職は後からついてくる

人事担当者として応募者の方や新メンバーと接していると、よく「森逸崎もりいざきさんがこの会社に入ったきっかけって何だったんですか?」という質問をされることがある。

その度に半分申し訳なく「参考にならないと思うんだけど」と補足してから、私は毎回「ただ時給が高かったからなんだよね」と正直に伝えるようにしている。

実際私はこの小さなITベンチャーに入る前、正社員で勤めていた飲食店を辞めてから大学に入学して中退して、書店・居酒屋・牛丼屋のアルバイトを掛け持ちして生活していた。

自分で決めたことをやりきる意思の強さもなく、かと言って周りを納得させられるほどのスキルも何もなく、23にもなってただひたすら時間を溶かすようにアルバイトに打ち込む毎日。

自分の将来についても何も考えない、ただ今目の前のことだけに集中することで「頑張っている自分」をお金と一緒にもらっている感覚だった。

ちょうどそのころ付き合っていた彼氏にくっついて引っ越すことにしていて、新しいアルバイト先でも探そうかなと思った矢先、見つけたのが今の職場の募集要項だった。

バイトを選ぶ基準なんて簡単で、当時の私が見ていたのは家から通いやすい・時給が高い・未経験歓迎とかそのくらいだ。

「有名グルメ媒体の原稿作成!未経験大歓迎!1年で3年分の成長ができます」というよくある文句と、それからこれまでの職場よりも400円も高い時給に釣られて、私はまんまと今の会社に面接を受けに行ったのである。


ところが衝撃だったのがその面接官の女性だった。なんと当時の私と同い年だったのだ。ついでに言うと金髪だった。色白の肌に合う、とても綺麗な色だと思った。

髪の毛を見てぼーっとしている私をよそに、彼女は淀みなく自己紹介と事業紹介をした上で、ポンポンと私に対してヒアリングをかけ、そして初対面にも関わらず私の考えの甘さや直すべきところ、忌憚ない意見をぶつけてくる。

当時彼女は30名ほどのチームをまとめるマネージャーというポジションだった。彼女も、大学を中退し、21歳の頃からこの会社にいると言っていた。

「正直さ、できることなんてまだなくていいんだよ。これからできることを少しずつ増やしていけばいい。こうなりたいだとか、こういうポジションに就きたいだとかいう感覚も私にはよくわからない。そんなの、実績さえ出せば後からいくらでも付いてくるんだから。」

言い切られてしまうもんだから、妙に納得してしまったのである。

「あとあなた、声が小さいし、今のままだと営業で売れないと思う。」
ほげー。
「あと考え方割とネガティブだね。そこはちょっと直してった方がこれからもっと良い仕事できるようになりそうだね。」
ほげー。
「でも大丈夫。明るくて元気で素直であれば、誰でも実績出せるようになるから。」
ほげー。

初対面の相手にすごい容赦ないボディブローを浴びせる彼女に半ば感心しながらも、自信たっぷりなその発言はなぜか、少なからず私を前向きにしてくれた。

だって今ここにいるのは毎日フラフラしているフリーター、片やバリバリのキャリアウーマン。「同い年でここまで経験の差が出る」という事実を今、私は目の当たりにしている。

この先どんな人間になりたいとか、どうありたいとか、何の理想もなかったけど、ここでなら、こんな私でも少しは変われるかもしれないと思った。

かくして私は「明るくて素直で元気であれば売れる」という慰めを本気で信じて、営業職のアルバイトとして今の会社に入社したのである。

再度記載しておくが当時の私は、頭を使って何も考えちゃいない。「内勤の原稿作成」だと思っていた仕事が実は「外回りの営業」だったことも、この面接で初めて知ったくらいの情報収集力と理解力。
時給の高さと、「もしかしたら自分も変われるかもしれない」という、一縷の、それはそれは細い願いのもと、その世界に飛び込んだ。


フィードバックサイクルは最速で

その後私は、契約社員、社員と雇用形態を変えながら、リテール営業、法人営業、営業企画を経て今の人事部の教育担当というポジションに至る。

入社してかれこれ6年弱。実に色んな人に助けられ、あらゆる失敗を繰り返しながら、その都度新しいチャンスをもらい続けてきた。

もちろん楽なことばかりではなかったし、泣くほど悔しい思いもたくさんしてきた。何でもっとこの会社に早く入らなかったんだろうと、できもしない仮定をしては自分をなじったこともある。

とはいえ「なんだかんだ未経験でよかったな」と思うこともちゃんとある。一つは、「こうすべき」というバイアスを持たずに、なんでも自分の好きに吸収することができたこと、そして二つ目は、経験に関係なく、そのメンバーの可能性を信じてあげられるようになったこと。

私は「これ試してみたら?」と言われたら「はい、わかりましたー!」とバカの一つ覚えみたいに実行したし、「これ読んでみたら?」と言われたらすぐに本屋に行って購入して読んでは感想を共有した。
飽きっぽい私でも続けられるくらい、毎日色んな変化がある面白い職場だった。

ありがたく表彰される程度には営業実績を残すことができたし、リーダーやマネージャーの経験もさせてもらえたし、自分の視野も昔と比較してだいぶ広がったと思う。
面接の時に言われたとおり、「役職なんてものは後からついてくる」のだと思った。

二つ目のメンバーの可能性を信じられる、という点は、これはもう、「私にでもできたんだから」という自負がある部分に尽きる。

私は正直、人には言えないクズみたいな生活をしていた時期もある。(ここではあえて触れないことにする)そして頭も良くない。
今の会社に入る前に「某通信会社のカウンターのお姉さんの話をハイハイ聞いていたらよくわからない契約を結んでしまって翌月10万の請求が来た」ことがあるくらいには、物事に対しての理解が乏しい人間だった。

そんな私でさえ、色んな人の助けを借りてここまで変わることができた。

だから目の前でメンバーが自信なさそうにしていたって、そのメンバーの個性を知って、その人の戦い方をしっかり見立てられたら、それを信じてあげることだって簡単にできる。これまで上司が私にそうしてきてくれたように、私もただそれを後輩にするだけだ。

何歳からだって、どんな人だって、信じ続けてあげることさえできれば、誰でも変わることができると身をもって私は知っている。



愛すべき平凡な人間

できることが少しずつ増えて自分の強みも弱みも理解し始めると、人は自然と戦い方も変えていく。今まで身につけてきたこだわりも一つずつ手放しながら、徐々に本質だけを残していく。

私は最近になってようやく、自分の「want to」を考える機会を増やすようになった。認知科学コーチングを受けて、そのコーチに一緒に考えてもらったりもしている。

おそらく多くの人が大学在学時代にやってきただろう自己分析を、三十路手前の今になって私は着手していると思うと、我ながら苦笑してしまう。


まあそれでも良い。

自分に自信がない、すぐに諦める。自分で線を引き、限界を決め、信じることを辞める、飽きっぽくて逃げ出しやすくて、どこまでも平凡で醜くて、そしてどこまでも愛すべき個性を持った人間。それが今の私だ。


目の前のことに一生懸命になって、そしてふと振り返ったときに、自分を自分で褒めるくらいでちょうどいい。


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